「船底まで調べたが、怪しいもんは見つからなかったぜぇ」

広大な船内を捜索した後だというのに、疲労の色など微塵も見せずにスクアーロが告げた。
彼やマーモンはザンザスの命令で危険物や怪しげな人間が紛れ込んでいないか船内を調べていたのだ。

「念の為マーモンにも粘写させたが、おかしなものは写らなかった。妙な殺気も感じねえ。気の回しすぎじゃないのかぁ?」

ザンザスは答えずに真奈が歩き去った辺りに目を向けた。
赤いドレスに身を包んだ小柄な少女の姿は既に見当たらない。
もう壁の向こう側へ回ったのだろう。

「そのまま警戒を続けろ」

頑なに主張を曲げないザンザスに、スクアーロは任せろと踵を返した。
彼のボスがそうしろというのならば、必ず何かがあるのだ。
ただ強情なだけの男ならば、ここまで惹き付けられはしない。

圧倒的なカリスマ性と強さ、そしていざという時の判断力・決断力。
スクアーロは今でも沢田綱吉よりもザンザスのほうがボスとしての資質を備えた男なのだと堅く信じている。

船内に戻る前に一度振り返ると、ザンザスはまだその場に佇み、同じ方角を見据えていた。

(あいつが気になるなら直ぐに追いかけろよ、ボスさんよぉ)

しかし、そんな事を口に出せば、直ぐ様暴力による報復を受けるだろう。

不器用な男だ。
階段を降りながらスクアーロは苦笑した。
直接的な言葉を使っていないだけで、周囲にはその想いはとっくに筒抜けだというのに。
意地か虚勢か、ザンザスは未だ想いを告げる気配はない。
それがスクアーロにはじれったくもあり、またいかにもザンザスらしいとも思えるのだった。



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