「──ぶはっ!」

突然ザンザスが吹き出した。
ぴたりと黙ったカップルを見下ろし──いや、見下して冷笑する。

「てめえは変わらねえな、ジーモ。ガキの頃のまま、まるで成長してやがらねぇ」

「なっ…!」

「昔からそうだった。俺と張り合おうとしては惨めに失敗し、そうやって劣等感を募らせてきたんだろうが……いい加減、一度も俺の眼中に無かったことくらい気づけよ、ドカスが」

その深く響きのよい低音に籠められている感情は、嘲りというよりも哀れみに近い。
あくまでも上から。
取るに足らない目下の者に対する王者の余裕にようやく気が付いたのか、今やジーモは哀れなくらい真っ赤になっていた。
完全に図星を突かれたのだ。
ザンザスの言葉は的確に青年の劣等感を貫いていた。

「その女に都合のいい作り話を聞かされて俺に勝った気でいたようだが……残念だったな。そいつは俺の女ですらなかった、ただの使用済みの道具だ。一回こっきりのな」

今度は女が真っ赤になる番だった。
しかも何故か彼女は激しい憎悪に顔を歪めてザンザスではなく真奈を睨みつけてくる。
あるいはそれは、混乱する真奈を守るように彼女の腰をしっかりと抱き寄せていたザンザスの腕に嫉妬したせいだったのかもしれない。

「な、何を言ってる!どういう意味だ!?」

粉々になりかけたプライドをどうにかかき集めてジーモが怒鳴った。
ザンザスが「わからねぇのか」と低く呟く。

「俺の御下がりで満足かと聞いてるんだ」

それで終わりだった。
ジーモは、ザンザスではなく傍らの女に猛然と食ってかかったのだ。

「おいっ、話が違うじゃないか!お前がザンザスを捨てて俺に乗り換えたって言うから…!」

「な、なによ!あたしに恥をかかせる気!?」

(うわあ……)

完全に修羅場と化している。
他の招待客の視線が痛い。

「行くぞ」

呆然としていると、傍らのザンザスにぐいと引き寄せられた。
彼は既に、わめき罵りあう男女には完全に興味を失っているらしく、真奈だけを真っ直ぐ見据えている。

「あ……う、うん。でも、あの人達は……」

「カス共は放っとけ。あれだけ騒いでりゃ直に摘まみ出される」

まだ言い争っている二人を心配する真奈をザンザスは強引にその場から引き離した。
長い脚ですたすたと会場を横切っていく。

途中ですれ違ったボーイが持つトレイからグラスを取り、彼はそのまま会場の外、デッキへと出て行った。

知らない内に火照っていた頬に夜風が気持ちいい。
硝子の壁に囲まれた会場からはちょうどカーテンで遮られて見えない位置まで来ると、ザンザスは足を止めて真奈にグラスを差し出した。

「有難う」

グラスの中身はよく冷えた甘いドリンクだった。
半分程一気に飲み干して、ほっと息をつく。
あの二人の毒気にあてられたのか、知らず知らずの内に身体に力が入っていたらしい。



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