歓声の発生源は、近くのテーブルの脇に出来た人垣だった。
おめでとう、お幸せに、などという言葉が漏れ聞こえてくる。
早口で話されるとさっぱりだが、そういった言葉から真奈にも彼らの会話の内容が理解出来た。
つまりは結婚が決まったカップルを皆でお祝いしているところなのだ。

「あれは同盟ファミリーの一つ、ディルーポファミリーのボスの息子のジーモだ」

ザンザスが目線で示した先には、純白のタキシードを着た青年が立っていた。
人々に囲まれ、豪奢なブロンドの美女を腕に縋らせて締まりのない顔でヘラヘラと笑っているその姿は、とてもマフィアの子弟には見えない。
むしろ、いかにも甘やかされて育った金持ちの坊っちゃんといった印象を受けた。

「ディルーポファミリーは組織の規模こそ跳ね馬のところには適わねえが、ボンゴレの幹部(カポ)やジジイからの信頼は厚い。ただし、忠義心の塊の親父とは違って、息子のほうは無能なくせにガキの頃から俺に対抗心を燃やして何かと突っかかってきやがるどうしようもないカスだ。奴の親父が死ねばディルーポはもう終わりだろうな」

ザンザスがつまらなそうな口調で言う。

「役立たずと仲良しごっこをするほどボンゴレは甘くねぇ」

「それって…同盟関係に見切りをつけるってこと?」

「そうだ。もっとも、あのカスにはそんなことに気付く脳みそはないだろうがな」

視線に気が付いたのか、タイミングよく件の青年がふとこちらを向いた。
傍らの美女に何事か耳打ちして、ニヤニヤ笑いながら近づいて来る。

「久しぶりじゃないか!ザンザス!」

両手を広げて大袈裟に笑って見せるジーモを、ザンザスは無表情で見下ろしていた。

「暫く見ない内に趣味が変わったのかい?随分可愛らしい子を連れてるな」

ハンサムと言えなくもない笑顔に浮かぶのは、明らかな嘲りの色。

「彼女のことは覚えてるだろう?ヴィヴィアナだよ」

ジーモは自らの腕にしなだれかかっている美女をザンザスに見せつけるようにして言った。
ぷるんとした肉感的な唇にセクシーな笑みを浮かべた女もまた挑発するような顔でザンザスを見上げている。

「何年ぶりかしら?懐かしいわ」

女が甘ったるいセクシーな声で言った。

「私、彼と婚約したのよ、ザンザス」

「そうなんだよ。でも君とはもうとっくに終わった仲なんだし、別に気にしないだろう?悪く思わないでくれよ」

どうやら彼女はザンザスの昔の恋人だか愛人だったらしい。
しかし、気まずさを感じて困惑する真奈とは違い、ザンザスは相変わらずつまらなそうな無表情のままだった。
白けているようにも見える。
過去の女には興味がないのかもしれない。
真奈としてはショックを受けるべきか、ほっとするべきか迷うところだ。

ジーモ達はいかに自分達が今幸せであるか、熱弁をふるっている。
その顔は異様な興奮にギラギラと輝いていて、何かに憑かれた人間のようにも見え、真奈はゾッとした。



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