既にパーティーは始まっていた。

ホテルのドアボーイのような役割があるらしい男性が恭しく開いてくれた黄金の扉を抜けて会場へ。

ホールに足を踏み入れた途端押し寄せたのは、無数の視線による洗礼だった。
ザンザス、と誰かが囁いたのを皮切りに、さざ波の如くざわめきが周囲に広がっていく。

好奇と嫌悪の入り混じった視線。
どの顔にも紛れもない畏怖の色が浮かんでいた。

その中を、ザンザスは平然と歩いていく。
彼にとっては珍しい光景ではないのかもしれない。
ずっとこんな世界で生きてきたのだ──そう思うと胸が詰まった。
だが、その当のザンザスが堂々としているのだ。
真奈があれこれと思い悩んでおかしな行動をとっては、かえって彼のプライドを傷つけることになりかねない。
出来るだけいつも通りにしようと決めたとき、人の波を割って一人の老紳士が歩み寄ってきた。

「お久しぶりでございます、ザンザス様」

「…アレッシオ」

ザンザスの呟きに老紳士は穏やかな笑みで応えた。
どことなく9代目に雰囲気が似ている気がする。
だから苦手なのだろうか、ザンザスは不機嫌そうな顔で男を睨んでいた。

「お可愛らしい方をお連れでいらっしゃいますな。女性を伴っておいでになられたのは初めてではありませんか」

アレッシオと呼ばれた男が真奈に笑顔を向ける。

「真奈だ」

「初めまして」

ザンザスに紹介されたということは、挨拶をしても大丈夫な人物なのだろう。
にこにこと笑みを絶やさない男に微笑み返すと、男はおやという顔をした。
ザンザスが無言のままキツい眼差しで制する。
それだけで相手は直ぐ様心得たように頷いてみせた。


老紳士は今回のパーティーの主催代行を務める人物であったらしい。
心配していた騒ぎにはならずに済んだが、彼が真っ先にザンザスに挨拶をしにやって来たお陰で、周囲の者のこちらを見る目が明らかに変化したのが見てとれた。

次々に人々が訪れては、当たり障りのない挨拶をしてそそくさと立ち去っていく。
10代目の座は奪われたものの、ザンザスは暗殺部隊の首領であり9代目の息子なのだ。
暴君たる彼を敬遠はしていても、万が一の事を考えて覚えをよくしておきたいというところなのかもしれない。

しかし、そんな思惑は関係無しに礼儀正しく挨拶してくる者もいた。
同盟ファミリーの要人が多かったように思う。
ザンザスはそういった人々の中のほんの数人だけに自ら真奈を紹介した。

信頼……というと語弊がありそうだが、とにかく、彼らは必要な人材であるということなのだろう。
あるいは利用価値があるということか。
それらの人々の名前と顔を真奈は一生懸命脳みそに刻みつけた。


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