「とりあえず『雰囲気に慣れろ』というのが目的だ」 ドレスコードなどが記載された予定表を手に、ザンザスはこれからの事について簡単に説明してくれた。 招待客はマフィア関係者ばかり約200人。 内容が懇親パーティーであるだけに、妻子連れも多いらしい。 3つのプールがあるフロアの中央、防弾ガラスで囲まれたメインホールがパーティーの舞台だ。 成長した後は真奈も主催者側に回る事になるわけで、今の内に『こんなパーティーをやったりしますよ』というのを知っておくのもいいんじゃないかという9代目の配慮による招待なのだそうだ。 その気持ちは有り難い気もするが、何にしろいつも唐突だなあと思わずにはいられなかった。 情報漏洩を防ぐ為というのもあるのかもしれないが、せめて事前に教えて欲しい。 びっくりするから。 「こういうパーティーにくる人達って、普通は何が一番の目的なの?」 「コネ作りだ」 「ええと…人脈を強化したりとか?」 「まあそんなところだな」 裏切りを考えている者や、反抗的な者への牽制。 己よりも権力を持つ人間への擦り寄り。 華やかな見た目とは裏腹に、マフィアのパーティーとは様々な思惑と欲望が渦巻く汚泥の沼だ。 ザンザスは炎を思わせる赤い目で真奈を見た。 本当ならば、こんな場所に連れて来たくはなかった。 しかし、いずれにしてもいつかは否応なく巻き込まれることになるのであれば、今から耐性をつけておくほうがこの娘の為にもなるはずだ。 その役目を他の人間に譲るつもりは毛頭なかった。 「お前は特に何かする必要はない。積極的に誰かに話しかけることはするな。名前も俺が紹介するまでは名乗らなくていい」 「うん」 「紹介したら下の名前だけ言え。沢田の姓は口にするな。バレたら仕方ねえが、極力正体はバレないようにしろ」 「分かった」 「よし」 しなやかな動きでザンザスが椅子から立ち上がる。 「行くぞ」 |