海上では、夕暮れから日没まではあっという間だ。
そろそろパーティーが始まる時間である。

ようやく身支度が終わったと一息つく間もなく、隣の部屋へと連れ出された真奈は驚いた。
先ほどと同じように椅子に座っていたザンザスが、いわゆるブラックタイ──タキシードに着替えていたからだ。
これがまた意外なほど似合っていて恰好いい。
背が高くて体格がいいからなのだろうが、物凄く様になっている。

そういえばこの人は御曹司なのだったと真奈は思い出した。
9代目の息子として今までにもホワイトタイやブラックタイを着る機会が何度もあったのだろう。
着馴れているように見えるのはその為に違いない。

いま思えば、初めて出会った時この人は正確にはまだ16歳のままだったのではないだろうか。
“揺りかご”と呼ばれるクーデターから8年もの間ずっと氷漬けにされていたのだから。
それが今ではすっかり年齢相応の落ち着きを身につけているように見えた。
それが更に男前っぷりを上げている要素になっているのかもしれない。

「悪くねぇ」

真奈を上から下まで眺め降ろしたザンザスが、微かに満足そうな表情を浮かべて呟く。
およそ手放しで他人を褒めることなど無い男の最大級の賛辞だ。

「有難う。ザンザスも凄く素敵だね」

「……はっ」

にこにこしながら素直な感想を述べると、鼻で笑われた。



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