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炎の呼吸は攻撃に特化した技が多い。
そのため、後手後手に回っていては威力を充分に発揮出来ない。

「なまえ!そっちに行ったぞ!」

「はいっ!」

答えたのとほぼ同時に、煉獄に追い込まれた鬼が姿を現した。
まだ少し距離がある。
ならばと、不知火で一気に間合いを詰め、昇り炎天で縦真っ二つに斬り裂いた。
それでも鬼はまだ生きている。
頚を斬り落とさなければならない。

「いまだ。頚を斬れ」

いつの間にかすぐ背後に立っていた煉獄に促される。
まるで獅子が子に狩りの仕方を教えているようだと思いながら、なまえは鬼の頚を斬り落とした。

「よくやった。動きが格段に良くなってきているな」

「ありがとうございます」

「だが、油断は禁物だ。どれほど強い剣士でも、油断すれば命を落とす。慢心せず努力あるのみだ」

「はい、師範」

「うむ!では帰ろう!」

「はい!」

炎柱である煉獄杏寿郎の担当地区は広い。
今日も継子であるなまえと共にかなり遠方まで足を運んでいた。
普通ならば、途中の藤の花の家紋の家で休息を取るところだが、呼吸を使うことで通常の何倍もの速さで移動出来る利点を生かし、煉獄となまえは屋敷までの道のりを爆速で駆けてゆく。

「遅れているぞ!もっと呼吸の精度を高めろ!」

「はいっ!」

煉獄に叱咤され、なまえは意識して呼吸をするよう努めた。
まだ全集中の呼吸・常中が出来るようになって日が浅い。
ともすれば息が切れて呼吸が乱れそうになるのを堪えながら、必死に肺と足を動かす。

そうする内に、やっと屋敷に辿り着くことが出来た。

足を止めた途端、どっと疲労が押し寄せてくる。
思わず咳き込み、呼吸が乱れた。

「集中」

とん、となまえの額に指を当てて煉獄が指示する。
なまえはぐぐっと体勢を立て直して全集中の呼吸・常中に集中した。
やがて呼吸が整い、ヒュウヒュウと独特の音が口から漏れ出る。

「それでいい。全集中の呼吸・常中は柱への第一歩だからな!」

「はい、師範」

優しく微笑まれて、疲れが吹っ飛んだ気がした。
甘露寺ならば、恋の力ね!と頬を染めていたところだろう。
煉獄への想いをひた隠しにしているなまえだったが、この姉弟子には何故か一目でバレてしまった。
さすが恋の呼吸の使い手である。
そんなことを考えていたら、その甘露寺の声が聞こえてきたので驚いた。

「師範!なまえちゃん!」

「おお!甘露寺、久しぶりだな!」

「ご無沙汰しております」

「お久しぶりです!お元気そうでよかった!なまえちゃんもまた強くなったみたいね!」

「わかるか?」

「もちろん!」

嬉しそうに尋ねた煉獄に甘露寺が笑顔で返す。

「ありがとうございます。師範のご指導の賜物です」

「もう、なまえちゃんたら、私には敬語じゃなくていいって言ってるのに」

「そういうわけには参りません」

姉弟子の甘露寺蜜璃をなまえは心から尊敬している。
それこそ、煉獄の次くらいに。
甘露寺は柱としての実力はもちろんのこと、女性としても非常に魅力的な人物である。
人柄も良く、大変可愛らしい人だ。

「今日はどうした?」

「さつまいもを貰ったのでお裾分けに来ました!」

甘露寺は自分の後ろにある籠をじゃじゃーんと手の平で示して言った。
そこには文字通り山と積まれたさつまいもがあった。

「そうか!わざわざすまない!」

途端に相好を崩した煉獄に、甘露寺となまえはこっそり視線を交わして微笑んだ。
さつまいもは煉獄の大好物なのだ。

「私となまえちゃんで運びますね」

「では、俺は茶の用意をしてこよう!」

「お願いします」

さつまいもの山を半分ずつ持って運ぶ途中、甘露寺が小さな声で尋ねてきた。

「なまえちゃん、まだ告白してないのね」

「告白なんて、そんなっ」

「も〜、赤くなっちゃって可愛いんだから!」

「からかわないで下さい、蜜璃さん」

「からかってなんかいないわ。私、全力でなまえちゃんの恋を応援してるからねっ」

「ありがとうございます。でも、まだまだ未熟者なので、先は長そうです」

「なまえちゃんなら大丈夫よ。だって……」

「?」

「な、なんでもない!さ、早く運んじゃいましょう!」

「はい」

危ない危ない。思わず口が滑ってしまうところだった、と甘露寺は内心胸を押さえていた。

──本当は両想いだって知ったら、なまえちゃんはどうするかしら。

実は、煉獄もまたなまえを憎からず想っているのだと知ったら。


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