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元々夜目は利くほうだったが、鬼殺隊に入ってからは更に良く見えるようになっていた。
月明かりがある時も無い時も、夜毎、鬼を追いかけ回して狩っているからだろうか。

今夜も、最初にそれを見つけたのはなまえだった。

「師範!誰か倒れています!」

「怪我人か!?」

煉獄より先にその人物の元へ駆け寄ったなまえは、彼が隊服を着ていること、そして恐らくは命に関わるだろう大怪我を負っていることを見て取った。

離れた林の中から剣戟の音が聞こえてくる。
まだ他の隊士が鬼と戦っているようだ。

「怪我人の手当てを頼む」

「はい!」

煉獄の姿は瞬く間に見えなくなった。
鬼と交戦中の隊士の加勢に行ったのだ。

「向こうに……仲間が……」

「大丈夫、師範が、炎柱様が加勢に向かわれました」

安心したのか、腕の中の身体から一気に力が抜けた。
出血が激しい。
このままでは死んでしまう。

──少し、ほんの少しだけ……

傷にかざしたなまえの手が淡く光る。
すると、みるみる内に無惨に抉れた傷が塞がっていった。
全て回復するわけにはいかない。
ある程度、傷口は残しておかなければ。

気を失ったままの隊士の呼吸が穏やかなものに変わったのを感じ、なまえはほっと息をついた。
いかにも応急手当てをしましたという風に傷口を布で縛る。

そこへ煉獄が他の隊士達を連れて戻って来た。

「鬼は倒した。こちらは皆無事だ!怪我人の容態はどうだ?」

「出血が酷いですが、生きています。胡蝶様のところへ運びましょう」

「では、俺が運ぼう!」

煉獄が怪我人を背負い、呼吸を使って移動したので、残された他の隊士達は慌てたが、なまえが彼らを宥めて藤の家紋の家へ行くよう促した。




「胡蝶!すまないが診てやってくれ!」

「怪我人ですか?そこの診台に寝かせて下さい」

煉獄が怪我人を寝かせると、胡蝶しのぶは素早く傷口に巻かれた布を解いて治療に取りかかった。
一通りのことが済んだところで小首を傾げる。

「おかしいですね。この出血量なら傷が内臓に達していてもおかしくないのに、ごく浅い傷だけで内臓は無傷です」

「俺も彼を一目見て瀕死の重傷だと思ったのだが、見込み違いだったか。何にせよ無事で良かった!」

素直に喜ぶ煉獄に、そうですねと微笑んでみせて、胡蝶は改めて縫合したばかりの傷口に目を向けた。

彼女の中で疑念は大きくなるばかりだった。

まるで、一度傷付いた内臓が治ったような不思議な傷跡だった、と。


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