「君はいつも僕を怖がるね」

苦笑を漏らしつつ白蘭は片手で自らの制服の襟元を緩めた。
真奈の顔の両脇に手を突いて彼女の上に覆い被さる。

「これでもなるべく優しくしてるつもりなんだけどな……ねえ、真奈チャン?そんなに僕が嫌いかい?」

大きな蜂蜜色の瞳が白蘭を見上げてくる。
この瞳に彼に対する警戒の色が浮かんでいないのを見た事がない。
どの世界においても、彼女はその血の力による勘の良さで彼の本性を即座に見抜いて恐怖を感じてしまうらしかった。
ザンザスや六道骸、雲雀恭弥といった男達だって十分恐れるに値する存在に違いないのに、真奈は彼らのことは柔軟に受け入れて、白蘭だけを恐れるのだ。

怖がるのは構わない。
むしろ、怯える真奈をどんな風に追い詰めて手に入れようかと考えるのは、とても楽しい。
だが、他の男は受け入れるのに自分だけは頑なに受け入れないというのは面白くなかった。
嫉妬しているのだと気付いた時には思わず笑いだしてしまったくらいだ。

この、自分が。
世界を好きなように動かせる自分が、たった一人の女の為に嫉妬するなんて笑い話もいいところだ。
彼女は本当に楽しませてくれる。

「やっ……!」

身をよじって逃れようとするのを片手で頬を押さえて唇を寄せた、その瞬間。

ボフン、という音とともに白蘭の目の前が白い煙で包まれた。

「………やってくれたね、正チャン……」

思わず唸るように呟く。
ボンゴレの守護者達の入れ替わりは当初からの計画の内。
しかし、このタイミングでとは──はっきり言って、わざと邪魔されたとしか思えない。

白蘭が瞳をすがめて見守る先で、小さな影が動く。
真奈はもともと小柄な女性だったけれども、さっきまでよりももっと小さな、子供の影が。


──でもまあいいか。

白蘭の唇に笑みが戻る。

獲物に逃げられたわけではないのだ。
それどころか、これはこれで楽しめそうだった。
混乱した様子で見上げてくるあどけない少女の姿はいかにも儚げで、ゾクゾクする。

「え……だ、誰…?」

「初めまして、真奈チャン。僕の名前は白蘭」

「びゃくらん、さん?」

白蘭はくすっと笑った。
今のは絶対に全部平仮名で発音されたはずだ。

「そう。白い蘭で、白蘭。君の大事な弟やお友達を殺して君をとって食べようとしている悪いヤツだよ」

少女の瞳が驚きと恐怖で見開かれるのを見て、身震いしたくなるような喜びを覚えた。

これだから君は堪らない。

「地獄のような未来へようこそ、真奈チャン」



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