「それより君の話をしよう。君と、僕の、ね」

ゆっくりと近づいてくる白蘭を真奈は緊張して見守った。
逃げ出してしまいたくなるのを堪えて身を固くしているのがおかしいのか、白蘭は小さな笑い声を漏らし、彼女の背後に回った。

「君はイレギュラーな存在なんだよ、真奈チャン」

白蘭が優しげな手つきで真奈の髪を梳き、うなじに手を滑らせる。

「本来は存在するはずがなかった人間……そう言えばわかるかな?沢田夫妻の間には本当は男の子しか生まれないはずだった。彼らの子供は、一人息子の綱吉君だけのはずだったんだ」

「でも、」

「そう、君は間違いなく僕の目の前にいて、存在している。この世界ではね」

耳元に唇を寄せた白蘭がフッと笑った。
彼の吐息が甘く耳朶をくすぐる。
もし今ここに誰かが入ってきて二人を見たら、まるで睦み合う恋人同士に見えたかもしれない。

「パラレルワールドって知ってるかい?世界は一つじゃない、ある世界があるなら、そこから分岐した世界Aや世界Bが並行して同時に存在してるってヤツだよ。量子力学の多世界解釈とかバタフライエフェクトとか、まぁ色々難しい話は置いといて。映画や漫画の題材にもなってるから何かで見た事はあるんじゃないかな」

頷いた真奈を見て白蘭が続ける。

「ここからがまた複雑なんだけど……世界と同様に、未来も一つじゃないんだ。可能性の分だけ未来は分岐する。“誰とも結ばれていない”君が存在するこの未来を作るのは本当に大変だったよ。少しでも気を抜くと、直ぐに彼らの内の誰かに取られてしまうんだから」

真奈の身体が小刻みに震え始めたことに白蘭も当然気づいているはずだ。
宥めようとしたのか、それとも更なる恐怖を煽ろうとしたのか、彼は震える真奈の身体を背後からやんわりと抱きすくめた。

「いやっ…!離して…!」

「抵抗しても無駄だよ。誰も助けにきてはくれない。来たくても来られないのは君も解っているだろ?」

逃げようとする身体を押さえつける為、白蘭は真奈をしっかり腕の中に抱え込んだ。
そのまま顔を寄せるが、思いっきりそっぽを向かれてしまう。

「ふーん……」

白蘭は意地悪く笑った。

「まあいいけど。好きなだけ抵抗すればいいさ。そういうことならこっちも好きにやらせて貰うから」

白蘭は真奈の両手首をいともたやすく掴み取ると、両手首を片手でひとまとめにして押さえ、自分のベルトを抜き取ってそれで真奈の腕を拘束した。

「……っ!」

ドン、と突き飛ばされて倒れこんだ先は、ふわふわした毛皮のマットの上。

「うん、悪くないね。いい眺めだ」

両手首を縛られ転がされたその姿は、まるで蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のように可憐で淫靡な光景として白蘭の目を楽しませた。
乱れたドレスの裾から覗く内股の白さは痛々しいまでの美しさで、それをこれから汚してやるのだと思うと、サディスティックな興奮を覚えた。



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