ふう、と雲雀が息をつく。
上から見ている真奈にも、吐き出されたそれが熱いものであることが見てとれた。

「お水飲みますか?」

傍らのペットボトルを再び手にとる。
雲雀が頷いたので、真奈はペットボトルの飲み口を彼の口元に近付け、そっと傾けて水を飲ませてやった。

ある程度の量を飲んだところで、彼にしては緩慢な動きで片手が伸びてきて、もういいよ、と真奈の手に触れる。
真奈がそれに応えてペットボトルを離すと、その手が身を屈めるようにと手招いた。
素直に上半身を傾けた真奈の髪を雲雀が無言で撫でる。
骸が撫でたあたりを念入りに。

「ヒバリさん?」

真奈は不思議そうにしていたが、特に嫌がる素振りは見せなかった。
実際、嫌ではなかったからだ。
何か思うところがあっての行動なのだろうと、雲雀の好きにさせている。

そうして髪を撫でていた雲雀が不意に目を見張った。

真奈の耳の下、首筋にチラリと見えた赤い痕。
今まで髪に隠れて見えなかったそれを目にした瞬間、雲雀の臓腑を怒りと嫉妬の炎が灼いた。
ムッとして身を起こす。
傷ついた身体のあちこちが悲鳴を上げ、折れた骨が軋んだが、そんなものに構ってはいられない。

激痛もなんのその、慌てて止めようとした真奈の首筋に雲雀はガブリと噛みついた。

「ひゃっ!?」

痛みと驚きで跳ねた身体を押さえ込み、噛みついた場所をぺろりと舐める。
しかし一度芽生えた獰猛な衝動はそれだけではおさまらなかった。
胸の奥と腹の底がジクジクと疼く。

「他には?」

「え?」

「他は、どこを触られたの」

あの男に、と冷たい声音で言った雲雀の瞳は、真奈にはよく分からない感情を滾らせてギラギラと輝いていた。

「ええと……骸さんに触られた場所ってことでしょうか…?」

「そう。早く教えなよ。消毒するから」

消毒?
真奈はわけが分からないまま必死に頭を働かせた。
雲雀が何を考えているかはともかくとして、こうして身体を起こしているのが今の雲雀にとって良い状況であるはずがない。

「わ、わかりました。思い出しますから、横になっていて下さい。起きてちゃダメですよ」

何とか宥めて寝かせようとした時、ドアのほうから鍵を開ける音が聞こえてきた。



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