ある日の出来事。

執務室でいつものように書類の山に囲まれている弟の綱吉のもとへ午後のおやつを運んで行こうとしていた真奈は、途中で若い部下の一人に呼び止められた。
なんでも怪しげな客人が訪ねて来ているのだという。

「私に? ボスじゃなくて?」

来客を知らせた部下は緊張した面持ちで頷いた。

「はい。アポイントのない来訪は困ると伝えても、名前を言えば分かるの一点張りで……」

「名前は聞いた?」

「はい、運び屋の赤屍蔵人、と」

「赤屍さん!?」

驚きのあまり手から落としかけたトレイを慌てて持ち直す。

「応接室で待ってて貰って。直ぐに行くから!」



「お久しぶりですね、真奈さん。元気そうで安心しました」

久しぶりに会う赤屍は、相変わらず黒コートに黒いスーツ姿で、微笑を浮かべたその美貌は以前会った時と少しも変わっていないように見えた。
不死身なだけではなく不老不死なんじゃないだろうかと疑うほどに。

「赤屍さんもお元気そうで良かったです。でも、びっくりしました……急に訪ねて来られるなんて、何かあったんですか?」

「大した用事ではありません。元気でやっているか様子を見に来ただけですよ」

「はあ…」

「ですから、そこのお二人も、気になるのでしたら同席して頂いて構いませんよ」

え、と驚く間にドアが開き、雲雀が、そして窓際の緋色のカーテンの陰から骸が、それぞれ音もなく現れた。

「ワオ、凄いね。気配は消してたはずなんだけど」

「ただの運び屋というわけではなさそうですね」

口々に言って、赤屍と向かい合って座る真奈の左右に立つ彼らの瞳は、自分の縄張りに見知らぬ雄が侵入したのを見つけた肉食獣のそれのように、ギラギラと輝いていた。
はっきり言って物騒な事この上ない。

しかし、さすがと言うべきか、赤屍に動揺した様子はなく、むしろ今の状況を楽しんでいるかの如く愉しげな微笑を浮かべていた。
切れ長の美しい瞳が二人から真奈へと流れる。

「彼らが雲の守護者と霧の守護者ですか?」

「は、はい、私のじゃなくてツナのですけど」

そうですか、と答えた赤屍は、改めて雲雀と骸へと顔を向けた。

「お目にかかれて光栄ですよ。私は運び屋の赤屍蔵人と申します」

「僕は雲雀恭弥。こっちの変な髪型をした変態の事は気にしなくていいよ。この子に関する話なら僕が聞くから」

「初めまして。六道骸といいます。こちらの鳥の巣頭の事は無視して頂いて構いません。真奈さんについてのお話なら、恋人である僕が伺いましょう」

「誰が誰の恋人だって? 妄想もいい加減にしたら? 気持ち悪いんだけど」

「真奈さんが、僕の、ですよ。性格だけじゃなく耳まで悪くなったんですか。君こそ彼氏面はやめて下さい。図々しい」

「いえ、ちょ、あの、二人とも──」

「いいじゃありませんか、真奈さん。私なら大丈夫ですよ。せっかくですから、お二人とも同席して頂きましょう。楽しくお話出来そうだ」

ええそうでしょうとも。
真奈は心中密かに突っ込んだ。
戦闘マニアの似た者同士、話は合うに違いない。
さぞや血生臭い美形サミットになる事だろう。
そして、勿論、真奈にソレを止める術(すべ)などないのだ。
この身体にすっかり身についた、鬼畜属性の男への甘受と許容、邪悪さへの耐性は、彼らに擦りこまれたものであると言っても過言ではない。
このドSどもめ。



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