ガラッとドアが開く音がして、室内がにわかに活気づいた事に気付いた真奈が振り返った。

「あ、お客さんが来たみたい」

「どれどれ───て、骸ーー!?」

教室に入ってきた人物を見た綱吉が叫び声をあげる。
一番乗りの客は、部下二人を従えた六道骸だったのだ。

神出鬼没の霧の守護者は、真奈を見てクフフと妖しく笑ってみせた。

「おやおや、今日はまた随分と可愛らしい格好ですねぇ。もしかして不思議の国のアリスですか?」

「うん」

「可愛いですよ。とてもよくお似合いだ」

「本当?有難う」

青ざめる綱吉も戦闘体制になった獄寺も無視して、骸は真っ直ぐ真奈に歩み寄る。
彼を客と認識した真奈は早速マニュアルに従って接客を始めた。

「いらっしゃいませ!お客様は三名様でよろしいですか?」

「ええ」

「では、こちらにどうぞ」

窓際のテーブルに案内し、メニューを開いて骸に手渡す。
これもマニュアル通りだ。

「ご注文は何になさいますか?」

「君にします」

「…ん?」

「君が食べたい」

「えええっ」

「てんめー、果てろッッ!!」

「うわあぁっ!獄寺君、ダイナマイトはダメだってーー!」

ダイナマイトを取り出した獄寺を綱吉が押さえつけたので、とりあえず教室の破壊は防げた。
──が、しかし。

「うわっ!?」

ざぶん!

突然足元に打ち寄せた水に足元をすくわれ、綱吉が仰け反る。
突如として教室の中に発生した大量の水が、渦巻くように流れ出し、室内にいた生徒達はパニック状態に陥った。
その隙に真奈は骸に抱き抱えられてしまっている。

「クフフ……」

楽しげな含み笑いが耳を打ち、まさか、と真奈が振り返れば、やはり赤い瞳に浮かぶ『一』の文字。
やはりこれらは全て地獄道の幻覚なのだ。

「それでは、注文の品はテイクアウトさせて頂きますよ」

真奈を抱えたまま骸が窓枠に足をかける。
ちなみにここは三階だ。

「ま、待って骸…離して!」

「離す?」

犬と千種が綱吉達の足止めをしている前で、骸は妙に愛らしい仕草で小首を傾げてみせた。

「離しても良いのですか?落ちますけど」

「!!!だ、だめ!やっぱり離さないでっ!!」

「離さないで、なんて……君は随分と情熱的な女性(ひと)なんですね」

骸は長い睫毛をそっと伏せて、はにかむように微笑んだ。
白い頬にはほのかな赤みが差している。

「心配しなくても、僕は絶対に君を離しませんよ。死んでも、ね。地獄の果てまで追いかけて、捕まえて、決して離さない。──だから安心して下さい」

「怖いよっ!全然安心できないよっ!!」

ぎゅうぎゅう抱きしめられながら、真奈は震え上がった。

「さあ、行きましょう」

「きゃあああああっ!?」

軽やかにジャンプした骸ごと真奈の身体が宙に浮く。
真奈は思わずぎゅっと目を閉じて彼にしがみついていた。



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