どれくらい眠っていたのだろう。
真奈が深い眠りから目が覚めたとき、辺りは暗かった。

「起きたか」

真横から聞こえた声に首を巡らせると、ベッドサイドの椅子に座るザンザスの姿が見えた。
ヴァリアーの隊服らしき上着を肩に羽織り、こちらをじっと見つめている。
移送車から助け出された時と同じく、彼からは敵意や害意はまったく感じられない。

──そう、助け出されたのだ。
真奈には彼が間違いなく味方であるという確信があった。

待っていろ、と言い置いてザンザスが立ち上がる。
何処かに移動していく彼の広い背中を真奈はぼんやりと見守った。
ミルフィオーレの本部タワーにいた時に比べれば多少体調が回復しているような気はしたが、目を開けているとまだ目眩がする。
特にだるさが酷い。
全身を重苦しい倦怠感が包み込んでいるようだった。

透明な液体が入ったガラスの瓶とグラスを持ったザンザスが戻ってくる。
彼は一旦それらをサイドテーブルに置き、それから真奈の首の後ろに手を入れて彼女の身体を抱き起こした。

「ありがとう……」

自分で思っていた以上に掠れた弱々しい声が出たことに驚く。
本当にこの身体はどうなってしまったのだろう?

ザンザスはそんな真奈を見下ろし、ふんと小さく鼻で笑ってグラスに水を注いだ。
小馬鹿にした笑い方であるにも関わらず、まるで嫌な感じはしない。
それどころか、不思議な慕わしさが込み上げてきたことに真奈は自分でも戸惑っていた。
例えるなら、血の繋がった親戚に感じるような、そんな親しみをザンザスに感じるのだ。

クッションやら枕やらを背の後ろに詰め込まれ、半身を起こした状態でそこにもたれかかった真奈に、ザンザスが水の入ったグラスを差し出す。
口元まで運ばれたそれに真奈が手を添えても、彼は手を離そうとはしなかった。
そのままグラスを支えてくれるつもりらしい。

確かに今の状態では有り難い行為ではあるが、彼がそんな優しい気遣いを見せた事に驚いて真奈は彫りの深い顔を見上げた。
精悍さを増したその顔は、もともと整った顔立ちであることも手伝って男らしい魅力に満ちている。

「なんだ」

「う…ううん……」

冷静に問いかけられた真奈は、微かに頬を染めて首を振った。



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