「どうもお世話になりました」

「いえいえ、大したお構いも出来ませんで……また何時でもいらして下さいねえ」

ぺこりと頭を下げるなまえに、相変わらずにこにこしながら村長の奥さんは藤の弁当箱を渡してくれた。
農村の朝らしく、何処かで鶏が鳴いている。
恐怖の一夜を過ごした後だけに、朝日が清々しく感じられた。


「これ、おはぎ。こんなもので申し訳ないけど、良かったら車の中で召し上がれ」

「有難うございます」


同じようににこやかな笑顔で弁当箱を受け取る赤屍に、なまえは複雑な表情を向けた。

昨夜公民館を訪れたのは、幽霊でもなんでもなく、なまえを迎えに来た赤屍だった。
なまえが送ったメールで山村へ大学の教授の使いで来ていたなまえが帰れなくなったと知った彼は、車を走らせてわざわざここまでやって来たのである。

それは嬉しい。
すごく嬉しい。
嬉しいが、もっと、こう、違うやり方があったのではないかと思ってしまうのは贅沢だろうか?


「玄関で声をかけてくれれば、あんな怖い思いをしなくて済んだのに……」


ほっとしたのと驚いたのとで、赤屍に抱きついてわんわん泣いた後で、そう涙声でなじったなまえに、赤屍は


「おや、隠れんぼをしたかったのではないのですか?」


と笑ってみせたのだった。
前からそんな気はしていたが、この男は本当に筋金入りのサディストである。
ドS。鬼畜だ。
絶対にいじめて楽しんでいる。

……まあ、確かに昨夜はそのまま赤屍に一緒に寝て貰って助かったのだが、予期せぬ肝試しをさせられた#名前#としては、あんな思いをするのはもうこりごりだった。


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