「ああ、そういえば──」


帰りの車中で、村長の奥さんに貰ったおはぎをもぐもぐ食べているなまえに、ハンドルを握りながら赤屍が何気なく切り出す。


「あの日はお祭りか何かだったのですか?あんな夜更けに村人が歩いていたので驚きましたよ」

「えっ?お祭りとかじゃあ無かったはずですけど…」


昨日見た限りでは、特にそういった準備をしている様子もなく、いかにも静かな農村といった感じで、村人もあまり見かけなかった。


「そうですか。てっきり祭りか何かがあって、その為の装束を着ていたと思ったのですが……普段着にしては、ねぇ……」


私もひとの事は言えませんが、と笑って赤屍が続ける。


「鬼の扮装とでも言うのですかね、あれは。ご丁寧に鬼の面までつけていましたよ。親切にも、貴女が公民館にいるのだと教えてくれたので助かりました。彼も同じ方向に向かっていましたし、てっきり同じ場所に行くのだと思っていたら、途中ではぐれてしまいましてね。
夜明け前に、窓の外からこちらを覗いていたので、何か用事があったのではないかと思うのですが……
──おや、どうしました?」


なまえは赤屍に縋りつき、ぶるぶる震えていた。

どうやら『隠れんぼ』に参加したかったのは赤屍だけではなかったらしい。

もしも、メールを見た赤屍が迎えに来ていなかったら……
もしも、赤屍よりも先にその“鬼”が公民館に来ていたら──


なまえはもう二度と一人では何処にも泊まるまいと心に決めた。
特に、鬼が徘徊しているような村には。


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