──どれくらいそうしていただろうか。

数時間か、それとも数分か。
いつの間にかうとうとしていたなまえは、微かに聞こえてきた物音にビクッと身体を震わせた。

気のせいではない。

誰かが、公民館のドアをノックしていた。

頭の中に心臓があるみたいに、こめかみの辺りがドクドクと脈打っている。

──こんな時間に誰が? 村長の奥さんだろうか?
……いや、しかし、それならばノックなどせずに声をかけながら入って来るのではないだろうか?
それとも、電気が消えているから眠っているのだと思ってノックしているのかもしれない。
もしそうならば、早く出なければ。

そうは思っても、なかなか布団から出る決心がつかない。
なまえは暗闇の中、全身の神経を集中させて、ドアの向こうに佇んでいるであろう人物の気配を探った。


トントン、と、またノックの音。


少し間を置いて、今度はガチャガチャと鍵のかかっているドアを開けようとしている音が響いてきた。

その音を聞いたなまえは、とうとう布団から這い出した。

村長の奥さんが公民館を出た時になまえが内側から鍵をかけておいたのである。
村長の奥さんなら鍵を持っているはず。
では、今外にいるのは何者なのか──

暗闇の中で少し迷った挙げ句、なまえは意を決して立ち並ぶ襖の一つを開いた。
音がしないよう、静かに横に引いていく。

中には、思った通り折りたたみ式のテーブルや布団などがしまわれているようだった。
黒々とした塊は旧式のストーブだろうか。
暗くて良く見えないが、今は迷っている暇はない。
なまえは重ねられている布団の上に乗り、震える腕でゆっくりと襖を閉めた。

ピタリと襖が閉まるか閉まらないかといったタイミングで、入口のほうでガタンと音がし、次いで、カラカラと引き戸を開く音が聞こえてきた。


──入って来た!!


両手で口を押さえて悲鳴を漏らさないようにしながら、なまえは精一杯息を殺した。


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