コトの始まりは、大学の廊下で教授に呼び止められた時の出来事まで遡る。

君のレポートは大変結構だった。
着眼点といい、なかなか面白い内容だ。
今後もこの調子で頑張りたまえ。期待している。

普段は偏屈で陰険な人物と有名な教授にそんな風に誉められて、すっかり舞い上がってしまったなまえは、『ちょっとした使いを頼まれてくれないかね』という彼の言葉に、迂濶にも簡単に頷いてしまったのである。

教授の“使い”とは、都心から微妙に離れた某県にある山村に赴き、研究資料を受け取ってくる、という内容だった。
何でも、非常に取り扱いに注意を要する品であるらしく、宅配や郵送などでは頼めないのだとか。
普段から警戒心と猜疑心が強く、簡単には他人を信用しない人なので、その理由にも素直に納得がいった。
それと同時に、そんな教授に少なからず信頼されているのだと知って嬉しくもあった。

…今となっては馬鹿馬鹿しい話だが。


無事村に到着し、資料を受け取ったなまえは直ぐに引き返すつもりでいたのだが、既に最終電車が出てしまったと聞いて驚いた。
朝夕に合計二本しか電車がないのだと聞いて、またまた驚いた。
行きの時は教授に教えられた時間の通りに電車に乗ったため、よく時刻表を確認していなかったのだ。

そうする内にも、太陽は山の向こうへと沈んでいく。

吸血鬼ものの映画などでよくある、さっきまで明るかったのに早送りで空が夜になっていくシーンを思い出した。

余計な事を考えなければいいだけなのだが、こういう時にあれこれ思い出しては不吉な想像をしてしまうのが怖がりの特徴なのだから仕方ない。


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