……出そう。
それが第一印象だった。


「すみませんねぇ、わざわざこんな田舎まで来て頂いて」


この小さな山村の村長の奥さんなのだという老女が、布団の用意をしながらにこにこと微笑みかける。


「本当に何にも無い所ですから、お若い方には退屈でしょう」

「いえ、そんな……」


心尽くしの山菜料理と茶碗蒸しをご馳走になったばかりか、宿泊先の世話までして貰ったなまえは、ひたすら恐縮しながら言葉を濁した。

二十畳ほどもあるだろうか。
今晩の仮の宿となる公民館の広い座敷には、見事なくらい何も無い。
会合などで使うはずのテーブルなどは、座敷の一面にずらりと並んだ襖の中にしまわれているに違いない。

全ての襖がきっちり閉じられているのだけが救いだ。
もし、覗き見出来るくらいの薄い隙間が開いていたら、早くもパニックを起こしていただろう。

今はまだ蛍光灯の目映い灯りがあるから良いものの、電気を消したときの事を思うと、なまえは息苦しくなるような不安に襲われた。
窓の外は街灯など無い真っ暗闇。
しかも徒歩15分圏内には人家もないとくれば、恐怖を感じてしまうのも無理のない話である。


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