翌朝。 なまえは赤屍に促されるまま、アパートを借りた不動産屋に向かった。 管理会社に連絡するよりもそのほうがいいと赤屍が言ったからだ。 「隣の部屋……ですか?」 手元のファイルをペラペラと捲って担当者が面倒くさそうに呟く。 なまえのアパートのものであるらしいページにさしかかったその瞬間、気まずそうな表情が担当者の中年男性の顔をよぎった。 「おかしいですねぇ、隣は空室なんですが」 「………は?」 「話し声なんて聞こえるはずないですよ、誰もいないんですから。気のせいじゃないんですか?」 「そんなっ──」 「おやおや、確かにそれはおかしな話ですね」 抗議しかけたなまえを制して、赤屍は穏やかな口調で言った。 その途端、嫌味な笑顔を浮かべていた担当者の顔が凍り付く。 「“普通”は、誰も住んでいないはずの部屋から毎晩話し声がするはずはありませんよね?──しかも、どうやらそちらもその事をご存知だったようだ」 「な、何を…」 男の顔を脂汗が流れていく。 「事故物件というのでしょうか。いわゆる“出る”部屋を表しているのでしょう、そのマーク」 ファイルに眼差しを向けた赤屍の声に、担当者は慌ててファイルを閉じた。 が、そうしてしまった事で、かえって赤屍の指摘が正しかった事を証明したも同然だった。 |