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しまった。失敗した。

今日は早起きして、洗ったお皿を出勤前にお隣の赤屍さんに返す予定だったのに。
朝起きた時には寝坊ギリギリの時間になってしまっていた。
仕方なくそのまま出勤して今帰宅したのだが、大丈夫だろうか。
お仕事に行く前に渡せるようにと、なるべく早く帰宅したから大丈夫だと思うけど心配だ。

そもそも私は赤屍さんがなんの仕事をしているか知らない。
夜遅くに出ていくところを見ただけだから、何とも判断し難い。
でも、アパートのお隣さん同士なんてそんなものかもしれない。
赤屍さんも私の仕事なんて知らないだろうし。

日中の様子がわからないからなんとも言えないが、とにかくとても静かなお隣さんだ。
気配や生活音というものがない。
まるで誰もいないみたいに。

とにかく、今はお皿を返さなくては。
私は隣の部屋のドアの前に立った。
インターフォンを押す瞬間はドキドキだ。

ピンポーンと音が鳴り、少し待っていると、ドアが開いた。

「あの、こんにちは」

「こんにちは。今日は早く帰って来られたのですね」

「はい、あの、これ、ありがとうございました。とっても美味しかったです。御馳走さまでした」

「いえいえ、お粗末様でした」

赤屍さんはにこやかに言ってお皿を受け取った。
本当にいい人だなあ。

「お仕事に出かける前に伺おうと思っていたから、いらして良かったです」

「今日はお休みなのですよ」

「そうなんですか、ちょうど良かったです」

「そうですね。せっかく訪ねて下さったのですから留守にしていなくて良かったですよ」

平日休みか。
サービスか販売業なのかな。

「えっと、それじゃあ、失礼します」

「ええ、それでは、また」

ドアが閉まり、赤屍さんの姿が見えなくなると、ほっと息を吐き出した。
めちゃくちゃ緊張した…。

そういえば、私がこのアパートに引っ越してきた時、お隣さんは違う人だったはずだ。
引っ越しの挨拶をしたから間違いない。

赤屍さんのことだから、引っ越してきた時には挨拶に来てくれたと思うのだが、どうにも思い出せない。
こんなに親切にしてもらっておいて失礼な話である。

でも、本当に、いったいいつから赤屍さんは隣にいるのだろう。


「まあ、いいか」


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