二月十三日。その日、私はいつも通り普通に過ごしていた。翌日に迫るイベントにも気にせずに。
「凛凛!」 「どうしたの?」 「どうしたの?じゃないネ!なんでそんな平然といられるアルか!私は忘れてて…全然準備とかしてなくて焦ってるんだからな!」
「何の話?」それが私の率直な意見だった。 だって…忘れてるとか準備とか、私に言われても…なに遠足?って感じだし。
「ハァ!?今日がいつか分かってて言ってるアルか!一発しばいたらァ!」 「ちょちょちょ!一旦落ち着こう落ち着こう。私は何か分からないからちゃんと一から説明してほしいなって頼んでみたり」 「バカアル。正真正銘のバカアル」
ぐさり、と心に何かが突き刺さる音がした。イタイ…イタイよお母さん… それはともかく、神楽ちゃんはちゃんと私に分かるように説明を始めてくれた。
「今日は二月十三日であってるアルか?」 「あってるよ」 「凛は最近チョコ作ったアルか?」 「作ってないよ」 「明日のための準備は何もしてないってことアルな。じゃあ私と一緒に作るネ!」
ごめん、ちょっと分かんなかったけど…要はチョコレートを神楽ちゃんと一緒に作ればいいんだね。 二月十三日にチョコかぁ…何年ぶりだろう。
「いいよ」 「軽っ!もっと慌てると思ってたネ」 「だってチョコ作るだけでしょ?」 「そうアル。バレンタインのな」 「うん、分かった」 「慌てないのかヨ…」
ちょっとつまらなさそうに口をぶーっと尖らせる神楽ちゃん。そうなんだ、私をいじるのってそんなに楽しいんだね。 「私だってたまに慌てないことくらいあるよ!」とかいっときながら本当は内心、めちゃくちゃ慌ててます。 汗がたらりとこめかみを伝って顎からひざへ落ちる。
「じゃあ早速家庭科室行くネ!」 「あぁ…うん」
胃が痛い。それはきっと、緊張のせいかな…?
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