盲目臨也
不恰好オムライス
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都内高層マンション内。そこにはふたりの男が住んでいる。ひとりは車椅子に乗り、目は黒の布で覆い隠された黒髪の男。もうひとりはバーテン服で金髪の男。

ふたりは、かつては天敵だった。

夕飯時と呼ばれる時間、静雄は臨也の口の前に焦げたオムライスの乗ったスプーンを差し出していた。
「臨也、クチ開けろ」
「いつも言ってるけど、そういうのマジいらない。死ね」
自分でやるからいいっつってんだろ、そう言ってスプーンを奪い取ろうとするも、当然にびくももしないわけで。
「……」
「ふ、奪い取れるなら奪い取れよ。いーざーやーくーん?」
「…………ああ!今ほど見えなくて良かったことはないよ!勝ち誇った顔でもしてるもんなら顔面ナイフで切り裂いてるところだった。いくらシズちゃんの作ったへたくそオムライスでも卵に罪はない。シズちゃんの甘いものの食べ過ぎでドロドロになった血がケチャップのようにオムライスにかかってしまえば俺は一切の口にもしないし結果的に俺の目が見えないことによって卵を無駄にしな」
「黙って食えやあああ!!!」

ふわふわの卵と、すこし焦げたケチャップライスののったオムライスのかけらは臨也のくちに半ば無理やり放りこまれた。
臨也にはいつもまずいまずいと言われるが、これでも上達したほうなのだ。
臨也と住みはじめたころだったか。
はじめてオムライスを作った時、ケチャップライスはケチャップの色をしたごはんでしかなかった。つまり味がほぼなかった。飯を彩るためにケチャップを入れたのではない、と静雄は顔を顰めた。
臨也には当然、「まずい」と言われた。同意ではあったが、つい腹が立って箸をひとつ駄目にした。臨也は焦げのついた卵だけ食って、あとは静雄に押し付けた。

次にチャレンジした時はベチョベチョだった。今回も静雄の作りたいオムライスにはならなくてへこんだ。料理とは難しい。
食べ慣れたお気に入りのチェーン店のオムライスとも、静雄の母親の作るオムライスとも掛け離れている。
勿論臨也には「まずい」と言われた。だが、半分は食べてくれた。

そのあと、いよいよ静雄はオムライス作りを母親に教わりに行った。
そこで、ベチョベチョになるのはケチャップの水分を飛ばさなかったせいだと知った。
「オムライスの作り方を知りたい」と言った時の母親は、何故か随分と驚いていたのを覚えている。同時に、なぜか嬉しそうだったことも。
教わったあとのオムライスは、ケチャップライスはちょっと焦げているが、ケチャップ色の白飯でもなく、ベチョベチョでもなく、静雄の知っているケチャップライスの姿だった。この時の感動を忘れない。
ただ、不器用な手先は何度やってもうまく卵をのせられず、見た目の格好はよくなかった。
臨也は「まずい」と言いながらはじめて全部食べた。その時もまた、卵に罪はないだのと言っていた気がする。なお、臨也はオムライスであれば卵は固めで焼かれたほうがお好みらしいが静雄は無視している。

「あのさあシズちゃん。いくら見えないと言ってもね、自分で食べれるの俺は。あーんなんかされたらむしろプライド的にも精神的にも良くないわけ。わかるかい」
「だって、危なっかしい」
「答えになってないんだけど」

そうして今日も臨也の口に、かつての天敵特製のオムライスが運ばれる。

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20190516

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