盲目臨也くん
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・タイトルまんま
・プロローグ
・13巻意識してますがふんわりしている
「っし、さっきので最後か」
陽はもう沈んでいた。トムは今日もお疲れさん、と静雄をねぎらった。静雄は「うす」と小さく相槌を打つ。
「このまま一緒に飲み行きたいとこだけど、すぐ帰らないといけないんだろ?」
「はあ、すみません。付き合えなくて」
「ハハ。いいのいいの。だよなあー。″アイツ″、待ってるんだもんな」
気遣うように静雄の背中を叩き、トムはにっと笑った。同時に、思い出していた。
最初はーー″アイツ″を匂わせる発言をしたらコメカミに血管を浮かばせていたっけ。どうにも静雄から彼の面倒は自分が見ると言い出したようだから、大丈夫だろうとさりげなく話題に出したら、取り立て先のひとりが病院送りになった。
まだ思うところがあるのか、それとも静雄の家にいる彼がいつも通りの憎たらしい言葉を吐いていて、それを思い出してことだったのか、その時のことはトムには知る由もないけれどーーただ、病院送りになった青年に対しては若干申し訳なく思っていた。
(けど静雄…変わったよな)
静雄があんなにも憎み嫌っていた″アイツ″と住むなんて、どうかしていると思っていた。
アイツがあんな目にあったのはお前のせいじゃないと何回も言い聞かせ、静雄の決めたことならそれをどうこう言う筋合いはないとわかっていてもなお、止められずにはいられなかった。
けれど静雄はそのトムの言葉に耳を貸さず、決意を一切曲げなかった。
『俺は…アイツの面倒見ます』
トムは目を見開いた。
静雄を知らない誰かから見たらそれは、無表情に、淡々と告げられているように見えるだろう。
一見わかりにくい。だが確かに、静かに大きく揺らめくものがあった。顔もわずかに強張っている。
静雄は本気なのだとわかるのにトムはそう時間を要さなかった。静雄の目に宿る決意、そして覚悟を。けして生半可な気持ちではないと。
だから、その瞬間から、トムは静雄を応援することに決めたのだ。
「つってもヴァローナも今帰国中だし…あっ社長…はなんか急用っつってたよなー。ちょっと奮発してキレイなねーちゃんのとこ行こうかな…」
ボソボソつぶやくトムを傍目に、静雄はケータイを開く。案の定、予想していた人物からのメールが届いていた。
『すしたのんだけどおおとろどれわからない10分以内にかえってこいわるくなるから』
ひらがな多用された文章。漢字が使えない、というわけではないらしい。おかしな変換や誤字をするくらいならこのほうがいい、と言っていた。
なぜ彼にこの文章が打てるのか、どういう仕組みなのか、以前呆れ気味に教えてもらったけれど、機械類にはさっぱりである静雄にはよくわからなかった。それを空気で察したのか、さらに呆れられた。
「あの、じゃあこれで」
「おー。気をつけて帰れよ」
トムは後輩の背中を見送りながら、ちらりと覗いた、おそらく″アイツ″からきたのであろうメールを読む静雄の表情を思い出す。
ーーーまあ、きっと、多分彼らは大丈夫だろう。そうして今夜行く店の検索を再開した。
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20190312
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