新入りAの後悔 [1/2]
この海賊団はお酒が好きな船長の意向で、大体週一ペースで宴が行われるらしい。
全員参加ではないみたいだが、傘下の海賊団も混ざっていることもあるので、毎度数百人規模の集まりだそうだ。
ちなみに文法がすべて推定なのは、入団一週間目のおれにとって初めての宴だからである。
ぶっちゃけ、これだけの大所帯だから隊員や傘下の海賊の区別は、ほぼつかない。
更に入りたてのおれはまだ所属隊が決まっておらず、今のところ特別親しくなった人もいない。
そもそもこんなに人がいると、誰がどこに居るのかもよく分からない。
つまり、居場所がないのである。
仕方なく甲板の隅で手持無沙汰になっていると、船内から次々と料理や酒が運ばれてくる。
せわしない下っ端や雑用係の姿をみて、あ、おれも手伝ったほうがいいのか?と思っていたら、突然背中を叩かれた。
グラスを落としそうになりながら振り返ると、見知らぬクルーが勝手におれの肩に手を回してきた。
「よーう!飲んでるか!?」
「え?あ、はぁ…」
「なんだよ、ノリがわりーなぁ!」
更に反対側からも肩を組まれて、サンドイッチ状態のおれは逃げ場をなくした。
この海賊団は明るく陽気な人が多く、名前も分からないようなやつにも、よう兄弟!と絡んでくる。
おれ的には放っておいてくれても一向に構わないのだが、仲間意識が強いらしい。
しかし…
「お!マークのヤツがおっぱじめたぞ!」
「ひゅー!やれー!」
そう言って、名も分からぬ二人は一目散に騒ぎの渦中へ消えていった。
ケンカでも始まったのか歓声とヤジが飛び、囲むように人だかりができている。
別にその中に入りたいとは思わないが、野次馬の群れはどんどん拡大し、そのまま突っ立っていたおれは見事に弾かれた。
確かに、この海賊団は明るく陽気な人が多いが、その反面、無頓着で自由なので誰も新人を取り持ったりしない。
気軽に声を掛けてきたと思えば、そのまま放置である。
おれは集団行動が得意ではないのだが、今まではそれなりにやってきた。
他人の流れに乗って当たり障りなく生きてきたが、この集団の中ではどうにも波に乗り切れないでいた。
「はぁ…」
もうこうなったらバックレようかな〜と船室方へ向かうと、見知らぬ女が空の食器を回収していた。
この海賊団で女性は珍しく、ナースではなさそうなので雑用係だろう。
なんとなくその女の動きを目で追いながら残りの酒を飲み込んでいたら、頭の形が派手な二人組が雑用に声を掛けた。
「おう!……が〜……っ!」
「そう…、……じゃねぇーか…」
ケンカの喧しさのが大きくて何を喋っているのかはよく聞こえなかったが、二人はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。
酔っ払いに絡まれて乙、とか思って通り過ぎようとしたら、雑用は嫌そうな顔をした後に持っていた皿でそのリーゼントヘアー思いっきり粉砕した。
更に蹲るリーゼントを置いて逃走を謀ったドレッドヘアーに、雑用は容赦なく皿やコップを投げつけ出した。
ドレッドに気を取られていると、いつの間にかリーゼントは逆方向に逃走していた。
突然の暴行に呆気にとられていたら、空になったコップを持ったおれに気付いた雑用が、ものすごい勢いでやってきた。
「貸して」
「え?」
「持ってくから、早く!」
「あ、はい」
トンズラしようとしたのがバレていたようで、おれからコップを引っ手繰ると、乱暴な動作で雑用は船室へ消えていった。
なんだ、あれ…
「ったく、アイツはすーぐモノ投げんだよねぇ」
「あんなんじゃ嫁の貰い手がねぇぞ」
その声に驚いて振り返ると、額にコブを作ったリーゼントと、頬に切り傷を作ったドレッドがいた。
一体どこから現れたのか、傷自体は大して気にしてないようで、二人は難しい顔で頭を悩ませている。
てゆーか、よく見たらこの二人隊長じゃん。
隊長にあんな態度をとるなんて、どんな雑用係だ。