Rachel

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新入りAの後悔 [2/2]


「器量もあって、見た目も悪くないのに…」
「すぐキレるからなぁ…」

まるで心配する親のような二人は、あの雑用を特別な風に思っているようだ。
たかが雑用なのに、よほどお気に入りなのか、それとも何かに秀でているのだろうか。

不思議に思っていると、知りたいか?知りたいだろ?と二人はおれの肩を掴んだ。

確かに異質な感じはするが、そこまで興味もない。
そう言っても、人の話を聞くような連中なら、おれは今こんなことにはなっていない。
新たなコップを手渡されて、おれのトンズラ計画は失敗に終わった。

「あれはちょうど一年くらい前のことでよぉ…」

そう始まった昔話は要するに、あの雑用――名前とやらが船長に勝負を挑んできて、当然あっさりと負けたけど、船長に頼み込んでムリヤリ乗船したという話だった。

「あれは凄かったよなぁ」
「あぁ、あんな小さいナリでオヤジに挑むなんて、なんかの冗談かと思ったぜ」
「はぁ…」

いつの間にか周りには他のクルーたちも集まっていて、隊長たちの言葉に賛同して口々に感想を述べる。
正直、おれはあんまり興味がなかったので、生返事しかできなかった。

「“頼もーう!”ってお前は道場破りかってな!」

リーゼント隊長のツッコミにドッと起こった笑いの中心で、二隊長に挟まれたおれだけ苦笑いだ。

「あれは、エースの上をいったよな〜」
「おれが何だって?」

そう言って更に輪に加わったのはワカメヘアーの男で、楽しそうにリーゼント隊長の横に腰を下ろした。

「おう、お前と名前の伝説の殴り込み事件の話だ」
「また、その話かよー!」

どうやら毎度この話題でからかわれているらしく、ワカメはうんざりした様子だ。
あ、この人も隊長だった…

「いつの話してんだよ、もういいだろ!?」
「いーじゃねーか!似たもの兄妹ってことで!なっ?」
「全然、嬉しくねえーよ」

きょうだい?
なるほど、それであの雑用も一目置かれているのか。

勝手に心の中で納得してグラスに口を付けていると、標的を変えたのか二隊長はワカメ隊長への冷やかしを増長させた。

「エースを返せー!って乗り込んできてよぉ」
「いいねー、愛されてるねー」
「うるせー!」
「オヤジは取り返したきゃおれを倒してみろってな」
「オヤジはノってやったんだなー」

そんな昔話を酒の肴に盛り上がっている集団を、冷ややかな目で見るおれ。
って、これ逃げられるんじゃね?

そう思ったおれは、気付かれないようにジリジリと場所を移動した。
そして、これなら抜け出せると思って腰を上げた瞬間に、誰かにぶつかった。
振り返ると、いつの間にか禍々しいオーラを発したあの雑用が仁王立ちしていた。

「なんの話してんの?」
「おう、名前!お前の伝説のエース争奪事件のことだ!」

さっきとタイトル違くなってるぞ。
そんなおれの心のツッコミなど誰にも届くはずもなく、雑用は先ほどのように皿を構えた。

「新入りになに教えてんの!しかもエースまで一緒になって!」
「は?おれは、なんも…」
「うるさーい!!」

うるさいのはお前だ。
そんなおれの心のツッコミなど以下略。

ワカメ隊長とリーゼント隊長の間をすり抜けた皿は、船べりにぶつかって粉々になった。

「名前が切れたぞー!!」
「逃げろー!!」

みんな慣れているのか、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
咄嗟のことで出遅れたおれの後頭部には、見事にコップが直撃した。
非常に痛い。

「新入りー!アンタも黙って聞いてんじゃないわよー!!」

更に訳の分からない因縁をつけられた。

おれ、なんでこの海賊団に入っちゃったんだろう…


2015/02/03

ホントどうして海賊になんてなったのよ、と思われるほどの無気力モブを目指しました。
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