Rachel

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走馬灯 [1/2]


走馬灯のように、とはよく言ったもので。

子供の頃に言いつけを破って叱られたことや、楽しくもない習い事をやらされたこと、褒められたくて頑張ったテストをロクに見もせずに捨てられたことや、教師やクラスメイトに張り付いた笑顔で話す自分などが、頭の中に浮かんでは消えた。

思い返せば、私はなんてつまらない人生を送ってきたのだろう。
こんなに早く幕を閉じるのなら、もっと楽しめばよかった。

そう思っても既に体は動かず、いつの間にか感覚もなくなっていた。
視界は周囲から徐々に闇に覆われていき、まるで貧血になったときのようだと思った。
確か周りには疎らだが通行人がいて、雨も降っていたはずなのに、辺りはシンと静まり返っていた。

霞む視界の中、人間は案外脆いんだなぁと、高が十数年ほど生きただけで、私はまるでこの世の全てを悟ったかのように目を閉じた。

それからどれ程の時間が経ったのだろうか。
私はふと寒気を感じて目を覚ました。
これが小説や映画の中なら、ここは天国か、もしくは病院のベッドの上である。

しかし、私の目に一番に飛び込んできたのは、真っ黒な空と生い茂る木々だった。
辺りが暗いのは先ほどと変わらないが、風に揺れる葉がはっきりと捉えられた。
更にその枝葉が擦れ合う微かな音まで聞こえて、不思議な気分に包まれた。

目を閉じる前は、まるで古いモノクロ映画のようだったのに、今ではすべてが鮮明だ。
もちろん体も自由に動き、ふと身を起こすといつも着ている制服が目に入った。
しかし、不思議なことに汚れも濡れもなく、夕方に学校を出た時と同じような状況だった。

もしかして、あれは夢だったのだろうか。
トラックに轢かれてこんなに綺麗な訳がない。
そうじゃないとしたら、やっぱりここは天国で、神様が身綺麗にしれくれたのだろうか。

そう思って辺りを見回したが、木と草しかない、ただの森のようだ。
私は地べたに仰向けで倒れていたようで、立ち上がると後頭部からパラパラと草が散った。

「さて、どうしようか…」

ここが現実にしろ天国にしろ、森の中でひとりポツンと佇んでも何にもならない。

「誰かいませんかー?」

念のため呼びかけてみるが、自分の声が木霊するだけだった。
仕方なく適当な方向へ歩き出したが、進めど進めど木しかない。

「もしかして私、迷子…?」

月も星もない暗闇を当てもなくさ迷う様子は、むしろ遭難と言えるかもしれない。
どれくらいの時間が経ったか分からないが、そろそろ歩くのも辛くなってきた。
このまま無闇に歩き回るよりも、大人しく夜が明けるのを待った方がいいのだろうか。

「なんで、こんなことになってんだろ…」

そもそも私は学校から塾へ向かう途中だったのに、どうやったらこんな人気のない森にたどり着くのだろうか。
実は誘拐でもされたのだろうか。

考えても当然答えは出るわけもなく、ため息だけが深くなった。

そんな風に途方に暮れていると、どこからか甲高い声が聞こえた。

――キイィィイー!

いや、声なのだろうか?
とても人の出す音ではなさそうなそれに振り返ると、暗闇の中から誰かがこちらへ向かってくるのが分かった。
うすボンヤリと浮かんだシルエットは人間だが、その動きはユラユラと頼りない。
それでも、何時間も一人で困り果てていた自分には、誰であろうとありがたいことには変わりない。

「あのー…」

そう思って数秒後、私はその考えを撤回した。
近付いてきたことで鮮明になったその姿は、とてもこの世のものとは思えないほどに恐ろしいものだったのだ。
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