――キイィェエェェー!!
「ヒッ…!」
高い金属音のような謎の奇声を発しながら、ゆっくりとした動作で近付いてきた謎の生物に、私は慌てて駆け出した。
恐ろしくて振り返ることも出来ずに一心不乱に走ると、いつの間にかその化け物はいなくなっていた。
「はぁ…なに、っ…あれ…」
ようやく息が落ち着いたところで、もう一度思い起こしてみた。
全体的に人の形をしてはいたが、そのほとんどに肉も皮もついておらず、骸骨そのものだった。
更にボロボロの鎧のようなものを身にまとっていて、刀のような武器を手にしていた。
まるで白骨化した落ち武者のようなそれが、ひとりでに動いて奇声を発する。
そんな悍ましい姿を思い出しただけで身震いがした。
「あれは人形…あれは人形…っ」
そうだ、動きがやたら遅くて、カクカクと硬くぎこちない仕草だった。
きっと誰かが操っていたに違いない。
そう言い聞かせても何故か震えは治まらず、どうにか静めようと深呼吸したら、今度は正面からそれがやってきた。
――シャアァァー!
「うわぁっ!」
先ほどと同じようで、でも少しだけ異なる形の化け物が、闇から飛び出してきた。
不覚にも足がもつれて尻餅をついてしまい、慌てて顔を上げると化け物はこちらに向かってきた。
(に、逃げなきゃ…)
狼狽えながらも手足をバタつかせると、足元に木の枝が落ちていることに気付いて咄嗟にそれを手にした。
よく見れば相手の刀はボロボロで、腐った鉄の棒と同じほどの強度しかなさそうだ。
こんな細く頼りない枝でどうにかなるとは思っていないが、逃げる隙ぐらいなら作れるかもしれない。
何とか立ち上がって枝を振り回したら、運よく化け物の頭部に命中した。
「やった…!」
まるで首が折れたようにしなって、ピクリとも動かなくなった化け物にハシャいでいたのも束の間。
突然、先ほどとは比べ物にならないくらいの速さで襲いかかってきた。
――シャァァアアーッ!!
「ひぃーっ!!」
持っていた枝はとうに使い物にならなくなっており、もちろん都合よく武器になりそうなものなんて落ちてない。
迫りくる化け物に腰を抜かした私は、攻撃などしないでさっさと逃げれば良かったと後悔したが後の祭り。
自分の浅はかさと見当違いな思考を呪った。
ここは現実でも天国でもない。
地獄なのだ。
「ッ!」
振り上げられた刀に、思わず目をつぶった。
今度こそ、もう終わりだ。
また私のつまらない人生が脳裏を駆け巡るのか。
そう思ったのに、走馬灯現象は一向にやってこない。
それどころか、化け物の奇声も聞こえなくなった。
「…誰だ」
「え…?」
恐る恐る顔を上げると、そこには化け物の代わりに見知らぬ男が立っていた。
その顔がやたらと綺麗に見えるのは、先ほどまで禍々しい骨だけの顔を見ていたからだろうか。
男の色素の薄い髪が、月明かりもないのにキラキラと輝いていた。
「あ…」
「……」
「たす、け…」
どこをどう見ても自分と同じ人間の形をした生物に出会えて、安心したのだろうか。
冷淡な顔立ちでニヤリと怪しく笑う男を目の前にして、私の視界は再び闇に包まれた。
2015/03/10
ついに名前変換もなくなってしまった…orz
呼ぶ人がいなからですよ。
最初に書いた時には、知盛はセリフすらなかったですからね。
呼ぶ人がいなからですよ。
最初に書いた時には、知盛はセリフすらなかったですからね。