あのね、だいすき [2/3]
ようやく落ち着いて、三本目の煙草が短くなった頃に、ダイニングルームにナミがやってきた。
「あぁ、ナミさんお茶かい?」
煙草を灰皿に押し付けながら立ち上がると、ナミが訝しむように眉間にシワを寄せた。
「どうしたの?」
「いやぁ、タチのわりぃ夢を見ちまって」
「夢?」
「リルちゃんがおれのことキライ!とか言うんだ」
「へぇ〜…」
やっと出た結論を冗談めかして言うと、何故かナミが意味深に笑った。
それを不気味に思いながらもヤカンを手にすると、いつの間に隣にやってきたのか、ナミの手がそっと重なった。
「な、ナミさん?」
「ねぇ、それって本当に夢だったの?」
「え?」
予期せぬボディタッチに動揺していると、更に予期せぬ言葉が聞こえた。
サンジが恐る恐る顔を上げると、ナミはニヤリと口の端を釣り上げた。
「現実から目を背けてるだけじゃない?」
「いや、そんなことは…」
まるで何かを確信したような口調と視線に耐えられなくなったサンジは、思わずナミから目を逸らしてしまった。
しかし、それを簡単に許してくれる相手ではなく、ムリヤリ向かい合せにさせられた。
「サンジくん」
「はい…」
「あんたリルにフラれたのよ」
「そんな…!?」
その歯に衣着せぬ物言いに、ショックでサンジがフラついた体をシンクに預けると、何故かナミが後ろから覆いかぶさってきた。
驚いて振り返ると、妖艶に微笑むナミの顔があった。
「ねぇ、じゃあ私にしない?」
「えっ!?」
「だってリルにフラれたんだから、いいじゃない」
「ななな、なにを!そんな急に…!!」
サンジが混乱していると、胸元に柔らかいものが押し付けられた。
(まさかこれも夢?もしかして朝からずっと夢なんじゃ…)
ならば、このフワフワでプルンプルンな感触は、例え夢だったとしてもいいんじゃないだろうか。
ずっと夢の中でもいいんじゃないだろうか。
そんな邪まな考えで鼻の下を伸ばしていると、突然サンジの額に衝撃が走った。
「いてっ!」
「まったく、本気にするんじゃないわよ」
思わず額をさすると、眼前には凶器と化したナミの細い指あった。
その中指は未だサンジのおでこを狙っているようで、押えている親指から今にも飛び出してきそうだ。
「え?だって…」
「カレンダー見なさい」
未だナミに抱き着かれたまま首だけ動かすと、そこには特別大きな文字で「4」と「1」が記してあった。
「あ…」
「どうせ、ウソップあたりに入れ知恵されたんでしょ」
「そっか…」
ようやく今日が何の日であるかを理解したサンジは一気に体の力が抜けていった。
同時に柔らかい感触も離れていき、ちょっとだけ名残惜しさを感じた。
(リルちゃんにはない感触だったな…)
そんな最低なことを考えながらもホッと胸を撫で下ろしていると、ナミの指がサンジの顎をとらえた。
「じゃあ、“私にする?”サンジくん」
「“もちろん”、よろこんでー!」
その意図を完全に理解したサンジは、満面の笑みで答えたが、ナミは口を噤んでから不服そうな顔で唇を尖らせた。
「即答するんじゃないわよ…」
「スイマセン、おれ“無節操”なもんで」
「それは本当のことでしょ」
ナミの辛辣な一言に、確かに昔はそうだったなぁと苦笑していると、今度はロビンがやってきた。
「何をしてるの?」
「サンジくんを誘惑してるの」
そう言ってサンジの首に手を回してきたナミは、その指で再びカレンダーを指差した。
それを視線で追って、すぐに意味を理解したらしいロビンはクスリと笑った。