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青くて、ただ真っ青な世界に
眩しい太陽の光が反射して
キラキラと輝いている
眩しい世界…
これが、海
* All serene! *
「う〜ん…特に異常はないんだけどなぁ…」
そう言って、フワフワモコモコの生き物が首を捻った。
その不思議な生き物は、ピョコピョコと可愛らしい音を立てて歩くと、後ろに置いてあった分厚い本をペラペラと捲っている。
初めて見る生き物を触ってみたい衝動に駆られた少女は、そっと手を伸ばしてみたが、寸前のところでその生き物が振り返ったので慌てて手を引っ込めた。
「なんだ?」
「っ…」
「ん?」
生き物は不思議そうな顔をしたけど、首を傾げただけで特に追求しなかった。
「のどは病気じゃなさそうだけど…足はなんなんだろう?」
更に分厚い本を取り出した生き物は、うんうん唸っている。
自分のせいでそこまで悩ませているのも申し訳なくて、少女は“もういいから”と言いたいが、それが彼に届くことはない。
「そんなに根つめんなって」
どうしたら伝わるのかと考えていたら、少女の気持ちを代弁するかのように頭上から声がした。
首だけで見上げてみると、黄金色の髪が太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
少女が眩しそうに目を細めると、金色の彼が笑った気配がした。
「診察は終わったのか?」
「あぁ、うん…」
「そうか、じゃあリルちゃんにはスペシャルドリンクを」
そう言って、サンジは少女の――リルの前に膝をついた。
サンジが持っていたトレイには、薄い青色の液体が入ったグラスが乗っていた。
それを差し出すと、リルは不思議そうな顔でグラスを見つめた。
(きれい…)
音もなく呟くと、サンジが何故かクスっと笑った。
「空、みたいだろ?」
サンジはリルの頭上を指差した。
そこには海よりも明るくて、海の端まで広がる空があった。
(おんなじ色…)
グラスと空を見比べていると、サンジが後ろから包み込むようにリルの腕を掴んだ。
「こうすると、ほら」
何をされるのかとドキドキしていると、サンジはそのままリルの腕を空へ掲げた。
空色のグラスの向こうには太陽が見えて、光を受けたグラスは水面のように輝いている。
「キレイだろう?」
その言葉にリルが勢いよく頷くと、サンジもまた嬉しそうに笑った。
「いいなぁ、おれにもくれよー」
二人でグラスを揺らして楽しんでいると、モコモコの生き物が――チョッパーが羨ましそうに見つめていた。
「ちっ…キッチンにあるよ」
「わーい!」
可愛らしく上目使いのチョッパーに、何故かサンジは舌打ちをしてキッチンを指差した。
しかしチョッパーは嫌そうな顔をするサンジに気付いていないのか、嬉しそうにキッチンへ走っていってしまった。
(かわいい…)
チョッパーはこの船の船医で、リルの足やノドを診てくれていた。
突然、見知らぬ人たちの船に乗ることになって緊張していたリルだが、その子供っぽい喋り方や、可愛らしい仕草で、チョッパーとはすぐに打ち解けられた。
今のリルの野望は、そのモコモコの毛並みをこの手で確かめてみることだ。
「さぁ、フルーツもあるから召し上がれ」
更にリルの前には、可愛らしく盛られたフルーツがやってきた。
切れ込みが入れてあったり、ハート型にくりぬかれていたり、と色とりどりの果物が並んでいる。
(これも、きれい…)
サンジはこの船のコックで、リルを船へ連れて来てくれた優しい人。
サンジが出してくれる料理はいつも見たことがないようなものばかりで、リルは感心して見惚れている。