Rachel

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「これより小さいとなると、これとか、これとか…あとはこの辺りが…」

小さなサイズに低いヒール、更にリルに似合ったものを、と考えるとかなり選択肢が狭くなってしまった。
どうしようかとサンジが呻っていると、店員が窺うように首を傾げた。

「これ以上小さいのはウチには置いてないですけど…」

そう言って店員はチラリとリルに視線を向けてから、フッと鼻に抜けるような息を吐いて微笑んだ。
それは先ほどと同じ綺麗な笑顔なのに…

(あぁ…せっかく美人が台無しだ)

以前ならどんな表情の女性も美しいと思っていたサンジだったが、今は何故かモヤモヤとしたものを感じた。
その心の変化に気付かないフリをしながら、サンジは足元に並べた靴を持って立ち上がった。

「そう、じゃあ…」
「えっ?」
「ありがとう」

それを全て店員に無理やり持たせてから、俯いていたリルを連れて店を出た。
当然、両手の塞がった店員は追いかけてくることも出来ず、チリンチリンというドアのベルが無情にも鳴り響いた。

「っ??」
「この店にはいいのなかったな、違う店にしよう」

戸惑うリルの手を引いて別の店を探していると、靴の形をした“ATELIER”と書かれた看板を発見した。

「そうだ!どうせなら作っちまおう!」
「?」
「リルちゃんにピッタリな靴を作ってもらおう」
「!?」

せっかく芸術の街に来たのに、流行の物を並べるような店に入ったのが間違いだったのだ。
慌てるリルをよそに、その工房へ足を踏み入れると、店内には一人の中年男性がのんびりとお茶を啜っていた。

「おや、いらっしゃい」
「彼女に靴を作ってほしいんだが」
「どんなのがいいんだい?」

気だるげな動きでお茶を置いた店主はノソノソと立ち上がり、店の端にあった椅子にリルを座らせると、慣れた手付きで足のサイズを測り始めた。

「リルちゃん、どんなのがいい?サンダル?パンプス?あ、いっそ何足か作ろうか?」

そう言うと、リルは驚いて首を横に振った。

「なんで?一足じゃ困るだろ?」

しかしリルが頑なに首を振るものだから、サンジも困り果てた。
物欲がないにも程があるんじゃないだろうか。
サンジが戸惑っているとリルも俯いてしまい、これ以上無理強いをしても仕方ないと気持ちを切り換えた。

「じゃあ、どんなのにする?」

しゃがんで下から見上げると、やっと目が合い、リルは申し訳なさそうにしながらもペンを取った。

“サンジに選んで欲しいな”

ボードで口元を隠して、その陰から窺うように見つめられて、サンジは思わず口元を抑えた。

(落ち着け、おれ…!)

その可愛らしいおねだりに身悶えていると、顔を背けたサンジに断られたと思ったのか、リルはボードで顔を隠した。
慌ててサンジは立ち上がって、その項垂れた頭をポンとひとつ撫でた。

「可愛いの選んであげるよ」

そう言うと、いつの間にか消えていた店主がサンプルを持ってきて、サンジが形や素材、色などを次々に決めていった。
サンジの言葉を黙って聞いていたリルは、どんな靴になるのか想像しているのだろう、嬉しそうに自分の足を眺めていた。

「それじゃあ、二日後に取りに来なさいな」

そう言われ店を出る頃には、リルは満面の笑顔だった。

そんなに喜ぶのなら、いくつだって買ってあげたいが、きっとリルは沢山は要らないと言うのだろう。

(島に着く度に一足ずつプレゼントすっかな…)

その足に似合う可愛らしい靴で駆け寄ってくる姿を想像して、サンジは思わず笑みが零れた。


心の中が温かくて、どこか清々しい爽やかな気持ち。
そんな秋日和。

2013/07/10
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