Rachel

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ただのラブレターだ [3/3]


(娘っていうのも悪くねぇな)

可愛らしい花柄の便箋を閉じた白ひげは、少女の頭に手を伸ばした。
その頭は白ひげの手にすっぽりとおさまるほど小さく、少女は怯えて一瞬肩をすくめたが、潰さないようにそっと撫でるとチラリと見上げてきた。
目が合ってニッと口の端を釣り上げると、少女は恥ずかしそうに俯いた。

「オヤジー!準備できたぜー!!」

そんな微笑ましい空気を切り裂いたのは、いわずと知れた末っ子だった。
満面の笑みで手を振ったエースは、白ひげの手の平におさまっている少女を見つけて駆け寄ってきた。
白ひげが手を退かしてやると、今度はエースがその頭に手を伸ばした。

「何やってんだ?寝癖ついてるぞ?」
「寝癖って…違いますよぅ!エース隊長じゃあるまいし」
「え?違うのか?」

優しく撫でたつもりだったが、ふわふわの髪の毛はいつの間にかボサボサになっていて、エースは撫で付ける様に少女の髪を整えた。
しかしそれは、髪を整えるだけにしては長く、頭を撫でるにしてはぶっきらぼうで、まるで妹みたいに可愛がっているようにも見えれば、恋人みたいに慈しんでいるようにも見える。

そんな曖昧なエースの仕草に戸惑いながらも、少女は先ほどと同じようにペコリと頭を下げて手紙を差し出した。

「え?なんだ?おれに?」

疑問符ばかり浮かべて戸惑っていたエースだが、少女がコクコク頷くと嬉しそうにそれを受け取った。
エースがガサガサと手紙を開いている隙に、少女は白ひげに向き直ると再び深く頭を下げてから、一人その頼りない足で船べりへ歩き出した。

「あっ!待てよ!おれのストライカーで送るから!」

エースが慌ててそのあとを追うと、少女は静かに首を横に振った。
その意味が分からずエースが不思議そうな顔をしていると、少女はそのまま海へ飛び込んだ。

「おっ、おい…!!」
「な、なんだっ!?」
「落ちたのか!?」

遠巻きに見ていた船員たちもどよめいて、慌ててエースが船べりから身を乗り出すと、海面から顔を出した少女は嬉しそうな笑顔を見せた。

「ありがとー!」
「お前、声っ…!」
「さようなら!」

少女は大きく手を振ると、尾ヒレを揺らして海の中へ消えて行った。
それを見て、今更彼女が人魚であったことを思い出した一同は、何故足があったのかという疑問を置き去りにして、その美しい遊泳姿に見惚れた。

人魚かと思えば、いつの間にか足が生えていて、喋れないと思っていたら、可愛らしい声で礼を言う、なんとも不思議な少女だった。

少女は水面のすぐ下を泳いでいるのか、時おり上がる飛沫とキラキラと輝く尾ヒレが見えた。
それが少しずつ遠ざかっていくのを眺めながら、エースは開きかけの手紙に視線を落とした。

「なになに?それ!なんて書いてあった?」
「え?あぁ…」

サッチが茶化すようにその手元を覗き込むと、エースは答えを躊躇って視線をさ迷わせた。
その先には目尻にたっぷりとシワを寄せた優しい眼差しがあった。

「オヤジ?」
「そういえば、オヤジも貰ってたよな?なに書いてあった?」
「なぁに、これは…」


ただのラブレターだ


(なぁ、エース)
(あぁ、そうだな…)
(てゆーか、おれも貰ったけどね)
(え!?)
(おれも貰ったよい)
(ふふ、粋なことするねぇ)
(これ可愛い便箋よね)
(あ、それ昨日私があげたんです!手紙書きたいって言うから!)
(なんだよ、みんな貰ったのか…)
(そんなムクれんなってエース!)
(ムクれてねぇーよ!)
(グララララ!)


2013/06/27

ごめん、エース…ストライカー準備し損(笑)
次でラストです!
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