Rachel

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(くそっ!やっぱり三匹は不利だ!)

連携攻撃をなんとかかわしながらも突破口を探したが、好転するどころか事態は悪化するばかり。
攻撃を避けたと思ったその先には、待ち構える様に牙が光っていた。

(だめだっ、間に合わないっ!!)

背中にはリルがいる。
変形を解くことは出来ないし、避けるには体勢が悪かった。

(もうダメだ…!!)

目の前まで迫った牙に、チョッパーは思わず目を瞑ってしまった。

――ガンッ!!

――ザシュ!!

角に牙が当たる音と、肉を裂くような音が響いた。
しかし、覚悟していたはずの痛みは一向にやってこない。
チョッパーが恐る恐る目を開けると、そこには血だらけで倒れる二匹の猪がいた。

「えっ?」

確かに何かぶつかったような衝撃はあったが、それはチョッパーの角と前方にいた猪の牙がぶつかり合ったものだった。
その猪は、今もチョッパーの前でグルグルとうなっている。

「ど、どういうことだ?」

横から飛び込んできた二匹が、目をつぶった僅かな隙にピクリとも動かなくなっていたのだ。
訳も分からずうろたえていると、残りの一匹が突進してきて、チョッパーは慌てて技を繰り出した。

「ロゼオコロネードっ!」

その角は猪の急所を確実に突いたが、パタリと倒れるまで戦闘態勢は崩さなかった。
結局、よく分からないままチョッパーは息をついた。

「一体なんで…」
「っ…」
「え?」

血だらけの猪を眺めていると、チョッパーの首元に何かがゆっくりと垂れてきた。
いったい何事かと振り返ると、リルの腕が真っ赤に染まっていた。

「わあああぁぁぁぁ!!!大丈夫かぁああ!?」
「…っ!」

自分のことで精一杯で、まさかリルにケガをさせていたとは思っていなかったチョッパーは、慌てて手当てをしようとした。
しかし、痛むのかリルは腕を抱えてチョッパーにみせようとしない。

「ごめんなぁ〜!おれのせいで〜!!」
「……」

チョッパーが涙ながらに謝ると、リルも申し訳なさそうに腕を解いた。
チョッパーは早速治療しようとリルの腕を取ったら、両腕の皮が削れたみたいに小さく幾つも捲れ上がっていた。
しかし、傷口を洗おうとしたところで、皮膚だと思っていたものがキラリと光った。

「あれ?なんだこれ?」

不思議に思ったチョッパーが、持っていたタオルで血を拭うと人間の皮膚とは違うものが出てきた。
小さく丸いものが折り重なるようにリルの腕についている。
それは、昨日見たリルの尾ヒレのようで…

「え?鱗?なんでだ?」
「っ…」

リルは人魚なのだから鱗があっても不思議ではないが、何故それが腕にあるのだろうか。
人魚の鱗は尾ヒレについているものではないのか。

チョッパーがひたすら首を傾げていると、その鱗が皮膚に同化するようにゆっくりと消えていった。

「えっ!?なんだこれ!?」
「っ!」
「どうなってんだっ!?」

見たこともない不思議な現象にリルの顔を見上げると、今にも泣き出してしまいそうな表情だった。
リルは未だ血に濡れた腕で、筆談用のボードを手に取った。

“みんなには内緒にして”
「え?内緒って…なんでだ?」

チョッパーが問いかけても、リルはそれ以上ペンを動かそうとはしなくて、ただひたすら頭を下げた。
結局、血を拭ったが、どこにも傷はついていなかった。

腕にあった鱗も、血だらけだった理由も、詳しくは分からなかったが、リルが人魚なのに足を持っている理由と同じような気がした。
それは、チョッパーがトナカイなのに人間でもある理由にも似ている気がして、それ以上は追求できなかった。


恐ろしいほどの静けさが、どこからともなくやってくる。

2013/04/23
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