覇気出すなって! [2/3]
「あ、わりぃ!針、引っ掛かったままだな!」
手に持ったままの釣竿が引っ張られて、エースはやっと状況に気が付いた。
服に引っ掛かった釣り針を取ろうとエースが手を伸ばすと、少女は肩をすくめて頭を抱えた。
「ご、ごめんなさいっ、ごめんなさい…!」
少女は脅えたように身を縮めて丸まってしまい、エースは焦って両腕をあげてしまった。
「お、落ち着けって!針取るだけだから!」
「は、はり…?」
恐る恐る見上げた少女に、エースはほら、と釣り糸を引いた。
少女はエースの手元と自分の右肩を交互に見て、目を瞬かせた。
やっと状況を理解したらしい少女を脅えさせないように、そーっと釣り針を外してからエースとニッと笑った。
「な?」
「……っ」
釣り針を目の前で見せてやると、少女は恥ずかしそうに俯いた。
エースはその項垂れた頭を「悪かったな」と撫でた。
「隊長…モテるのは知ってますけど、まさか釣竿で女釣っちゃうなんて…」
「しかも人魚…流石っすね!」
「バカヤロー!ワザとじゃねーよ!不可抗力だ!」
ニヤニヤと、あからさまに含みのある言い方をする隊員たちを一喝するが、どんどんと船員が集まってくる。
しかも、それを見た少女が次第に涙を滲ませていく。
「ぅ…っ…」
「おい?どうした?」
「あ、隊長が泣かした」
「サイテーっす!」
「なっ!おれのせいかよ!」
見知らぬ船で見知らぬ人に囲まれて不安になったのだろうか、少女は涙目で震えていた。
その大きな瞳が歪んで、雫が零れ落ちたのをみたエースは、焦ってバタバタと手を動かした。
「な、泣くなよ!悪かったって!」
「何やってんだよい」
必死に慰めようとするエースの背後から聞こえた声に、周りの船員達がサッと道を空けた。
言わずもがな、この海賊団の一番隊隊長様である。
マルコは少女の姿を確認すると、エースを不審な目で見た。
「エース…お前…」
「わ、ワザとじゃねぇーって!釣り針引っ掛けちまったんだよ!」
エースは必死に弁明するが、マルコはどこか呆れたようにため息をついた。
「ちゃんとキャッチアンドリリースするから!」
「そういう問題かいよい」
思わず頭を抱えたマルコを見て、エースは焦った。
そういえば、書類から逃げ出してきたのであった。
あぁ、マズイ…説教か?ゲンコツか?と構えていたが、返ってきたのは小さな呟きだけだった。
「なんだって人魚がこんなところに…」
「確かに…そうだな」
魚人島からはずいぶん距離がある。
マルコに言われて初めてその事実に気付いたエースは、腕組みをして真面目に思案した。
「おい、お前さん、ひとりかい?」
「っ…」
「こんな所で何してたんだよい」
マルコがしゃがみ込んで少女に問う。
しかし、間近で覗き込まれて更に脅えてしまったようだ。
「んな恐い顔じゃ、余計ビビッちまうだろ」
「うるせぇよい、元はと言えばお前が泣かしたんだろ」
「だーかーらー!おれのせいじゃねぇって!」
思わず地団駄を踏むと、マルコが立ち上がった。