Trick or Sweet! [3/4]
「ヨホホホ!皆さん、とてもよくお似合いで!」
「ギャー!!」
「うわっ!ブルック!てめぇ脅かすなよ!!」
全身黒ずくめのマントを羽織った男に、一瞬カボチャが宙を舞った。
フードの奥で白骨がカタカタと楽しそうに笑っている。
(リアルすぎだっつーの…)
未だ脈打つ鼓動を抑えながら部屋へ入ると、ちょうど着替え終わったらしい男二人がこちらを向いた。
「おっ!みんな準備できたか?」
手や足に茶色いフサフサの毛を携えた男は、麦わら帽子の上にもフサフサの耳が付いている。
一番最初に着替え終えた吸血鬼が戻ってきたのを見て、狼男は待ちわびたように部屋を出た。
「ナミたちが、まだみたいだな」
同じく部屋を出たボーダー柄の服を着た男は、キョロキョロと辺りを見回した。
同じ柄の帽子を被りながら、囚人の男は、髪チリチリだぞ、と吸血鬼の後頭部を指差した。
「うるせぇよ…」
ひとり部屋に残った吸血鬼は、タバコをギリギリと噛み締めながら櫛を手に取った。
(そういえば、リルちゃんはなんの仮装だろ…)
イラつく気持ちを抑えながら、なんとか髪を直して部屋を出ると、男だらけの甲板に女性がひとり混じっていた。
黒いタイトなミニスカートワンピースに身を包んだ美女が、吸血鬼を見てクスクスと笑う。
その背中には黒い羽根が、頭には角がついていた。
「ロビンちゅわ〜ん!」
「吸血鬼さんもお待ちかねのようね」
「え?」
その言葉の意味を測りかねていると、悪魔が吸血鬼の頭上を指差した。
見上げると、女部屋の扉が開いた。
「ほーら!早く!」
「っ…」
そこには、純白を纏った少女がいて、魔女に背中を押されて足をもつれさせた。
白いワンピースにレースのカチューシャをした少女は、ハート型のステッキを持って恥ずかしそうに俯いている。
(あぁ、おれは天国に着いちまったんだろうか…)
あんな可愛い天使なら浄化されても構わない、などと呆けていると、狼男のいつもの号令がかかった。
「よーし!宴だ!!サンジ、メシー!」
その声で我に返った吸血鬼は、用意してあった菓子やケーキをキッチンへ取りに戻った。
しかし、それを見た狼男は口を尖らせる。
「なんだよ、菓子ばっかりかよ。肉は?」
「ったく、お前は…ハロウィンだっつーの」
「まぁ、いっか。いっただっきまーす!」
「あ!てめぇ!こら!!」
この日のために色々と思案した、デコレーションの凝ったケーキ。
でも、よだれを垂らした肉食の狼は大した興味もないようで、一気にワンホール胃袋の中へ消えてしまった。
「ったく、てめぇらはこっちでも食ってろ!」
「うおー!うまほー!」
「スゲー!!」
女性陣のために用意したケーキまで食べられそうになり、吸血鬼は急いで別のチョコレートケーキを出した。
それはウエディングケーキとも見紛うほどの高さだった。
狼男やジャックオランタンがその巨大さに見惚れているスキに、切り分けたパンプキンケーキを魔女へ差し出した。
「どうぞ、マドモアゼル」
「ありがと。ところで…リルの首、付いてたわよ」
「えっ?」
「キスマーク」
まさか、先ほどの吸血鬼ごっこの事だろうか。
驚いて振り返ると、天使は甲板で巨大ケーキを眺めていた。
その首には白いチョーカーがあり、その痕が晒されることはなさそうだった。
魔女の配慮だろうか。
「ほどほどにしなさいよ」
「へへっ」
テーブルに肘をついて呆れ顔の魔女に叱られ、ヘラヘラしていると隣に悪魔が腰かけた。
「吸血鬼さん、トリックオアトリート」
「あい!どうぞ!」
「ふふっ、ありがとう」
「あっ、でもこんなに美しい悪魔なら、むしろイタズラされたい…」
条件反射でケーキを出してしまったことを少し後悔していると、口をチョコレートだらけにしたジャックオランタンが首を傾げた。