Rachel

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「っ…!」
「おいおい、慌てんなって」
「大丈夫だよ〜、いま足枷してあげるからね〜」
「って、おい、これ…」

砂の上に転んだリルの足首を掴んだ瞬間に、二人は突然押し黙った。
不審に思いながらもなんとか上半身を起こすと、コソコソと話す小さな声が聞こえた。

「いいんじゃないのか?」
「でも、これじゃあ…」

その会話の意味はリルにはよく分からなかったが、二人の気が逸れている今がチャンスだ。
そう思いコッソリ逃げ出そうと足に力を込めてはみたが、痛みを感じて上手く立ち上がることが出来なかった。

「ま、ダメなら捨てればいいだろ」
「そうっすね」

砂に足を取られている内に結論を出したらしい男たちは、もがいているリルに素早く足枷を嵌めた。
冷たくて重い鉄の感触に慄いていると、薄く白けた空と浅黒い手がリルの腕を掴むのが見えた。

(やめて…!離して!)

恐怖で震えながらも抵抗しようとしたその時に、リルはようやく身の異変に気が付いた。

「っ…、」
「さっさと立て」

予想外のことに驚き動けずにいると、足枷に繋がる鎖を引かれて激しい痛みが走った。
しかし、痛みよりも衝撃的な出来事にリルの思考は混乱していた。

(待って…え、なんで…?声が…)

そんな心の訴えが届くはずもなく、息だけを吐くリルに苛立ったらしい男たちは、乱暴に腕を引いた。
とはいえ、ムリヤリ立たせたところで足の痛みは増すばかりで、足枷と相まって歩行は困難を極めた。

「チッ、しょうがねぇな」

満足に歩くこともできないリルの様子を見て、男は面倒臭そうに足枷を外したが、それでも足をもつれさせるリルに、男たちはついに歩かせることを諦めたようだ。
リルの辛そうな顔を見向きもせずに、腕をムリヤリ引っ張って引き摺る様に連れて行った。

(ど、どうしよう…)

こんな不慣れな足ではとても逃げ出せないし、何故か助けを呼ぶための声も出ない。
見知らぬ土地で途方に暮れたリルは、何かに縋りたくて胸元に目をやったが、そこにあるはずの青い石が見当たらなかった。

(え?なんで!?お母さんのペンダントは?)

魔女と話をしている時には確かにあったはずなのに、体中を見回しても見付からなかった。
もしかして、どこかに落としてしまったのだろうか。
先ほどまで居た砂浜を振り返ろうとしたが、リルが抵抗していると思ったのか、男たちは腕の力をよりいっそう強めて、それは叶わなかった。

心の拠り所すらなくし、このまま連れて行かれたら自分はどうなってしまうのだろう、と絶望していると、右の男があくび混じりで呟いた。

「まだユーサーさん、居ますかね」
「!」

聞き覚えのある名前に顔を上げると、左の男も釣られるようにあくびをした。

「あー、確か八時だったか?船出すって言ってたの」
「じゃあ、さっさと行きましょう」

この男たちは彼の知り合いだろうか。
二人の会話から、向かっている先にユーサーが居るのだろうと推察できた。

彼に会えれば、きっとどうにかなる。
この二人が何を以てリルを連行しているのかは分からないが、ユーサーが知り合いだと説明すれば拘束を解いてくれるはずだ。
そして里のことも全て誤解だって否定してくれるはずだ。

唐突に射した一筋の光に、リルは期待を膨らませていた。

「な、なんで手枷も足枷もしてないんだ!」

それなのに、目の前に現れたユーサーはリルの姿を見るなり狼狽し顔を青ざめた。
いつもの優しくて明るい口調とは違い、酷く乱暴で横柄な態度だった。
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