Rachel

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目を閉じたら、体が痺れて上手く動かなかった。
脳も働かず、何も考えられなかった。
それは、まるで彼に出会った時のようだった。


* go to sleep *


恋ってなんだろう。
愛ってなんだろう。
よく分からないまま、絵本の中の王子様とお姫様に憧れていた。

愛し合う二人の物語を読むと、何故か胸が躍って世界がキラキラと輝いてみえた。
いつか自分も幸せなお姫様のようになりたい。
そんな思いだけで深海の暗闇を生きてきた。

ユーサーに出会った時は、まさにそれだった。
言いようのない気持ちにドキドキして、理由も分からずにワクワクして、目の前がキラキラと輝いた。

(もしかして…これが、恋?)

リルは、まるでおとぎ話の主人公になった気分だった。
自分が物語の中心にいて、その先にはハッピーエンドが待っていると思っていた。
こんな幸せな時がいつまでも続くと信じて疑わなかった。

でも、それは一夜にして全て崩れ落ちた。

「お前、騙されたんじゃないのか?」

リルは、ユーサーの言動のすべてを信じていた。
屈託のない笑顔も、語られる夢物語も、何もかも。
疑いすらしなかったし、彼が嘘をついているなんて信じられなかった。

だから、どうしても自分で確かめたかったのだ。
きっと老翁たちの思い過ごしで、他から漏れたに違いない。
彼が里の場所なんて知らないって言ってくれれば、そう信じたし、彼さえ居れば誰に疑われたってよかった。

リルは生まれ育った故郷も、育ててくれた家族も、この命すら捨てる覚悟で、魔女に唯一の願いを託した。

「さぁ、お前はどうしたい?」

気付けば見知らぬ海岸で一人、仰向けに倒れていた。
何が起こったのか分からずに辺りを見回していると、自分には存在しなかったはずの膝やくるぶしが目に入った。

(あ、あし…)

見慣れぬ足をつま先から付け根まで一通り眺めてから、ヒレを動かす要領で足に力を込めてみると、指がピクリと動いた。
そのまま恐る恐る立ち上がってみると、フラつきながらもなんとか二本の足で直立することに成功した。
少し痛むのは、きっと慣れていないからだろう。

どこか不安定な体は自分の物ではない様な感覚で、不思議な気持ちに包まれた。

いくら魔女に人ならぬ力があるとはいえ、ヒレを足に変えるなんて出来るものなのだろうか?
目の前にその証拠があるとは言え、未だに信じられない。
そもそも魔女は何故リルの願いを叶えてくれたのだろうか?

(とりあえず、ユーサーを探そう…)

疑問や腑に落ちないこともあるけれど、考えても仕方がない。

気持ちを切り替えて辺りを見回すと、見覚えのある岬を見つけた。
いつもと違い明るいので分からなかったが、どうやらユーサーと逢瀬を重ねた海岸近くのようだ。
ここからならユーサーが住んでいる場所も近いかもしれない。

リルは拙い動きで歩き出した。
それは正に希望への第一歩のはずだった。

「あれ〜?お嬢ちゃんこんなところで何してんのぉ〜?」
「迷子っかな〜?」

出鼻をくじいたのは、見知らぬ二人の男だった。
その顔は、他人の悪意に疎いリルですら気付くほどに怪しい笑みを浮かべていた。
恐怖を感じ咄嗟に逃げ出そうとしたが、今初めて歩いたばかりで赤子同然のリルには、走るということは難易度が高く、駆け出してすぐに足をもつれさせた。
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