オレンジ


窓の外に見える空は透き通るくらい青く、今日は素晴らしいほどの晴天。
少しずつ膨らみ始めた桜の蕾も、この空から沢山の光を浴びて、いずれほんのり紅く染まった桃色の花弁を目一杯広げる事だろう。

「美咲ちゃん、デートしよ」

…お日様の光を浴びて頭が沸いた輩がいるらしいな…。
鮎沢は溜息と共に沸き上がってくる頭痛に額を押さえた。

「ねー、美咲ちゃん」
「黙ってろ碓氷、今仕事中だって事ぐらい分かるだろ」

机の上に積み上げられた資料の間から、顔を覗かせている碓氷に向かって鮎沢は吐き捨てるように言った。

「はーい」
目元に厭らしい笑みを含ませながら、幼稚園児のような口調で答える碓氷。
もしもこんな幼稚園児がいたなら、保母さんは全員やつれるんじゃないだろうか。
…実際は一体どんな幼稚園児だったんだろう。
鮎沢は頭の片隅でそんなことを考えながら、手元の資料に目を通していった。





ふと手元に掛かる光がオレンジを帯びてきた頃。
気味が悪いほど静かな碓氷に目をやる。
資料の陰、机の端に乗せた腕に頭を埋めるように、碓氷は眠っていた。
色素の薄い髪は、夕日の色に侵食されているように、オレンジ色に輝いていた。

手を、伸ばしたい。

鮎沢はそう思ってしまった自分の心に動揺し、伸ばしかけた右腕を勢いよく引っ込めた。
カタン、とシャーペンが落ちる音が部屋に響く。
すぐに訪れたまっさらな無音。

…触れて、みたい。
そっと髪を摘み上げると、さらさらと指の隙間から零れていった。
その辺の男子達のようにワックスでガチガチに固めていたりだとか、逆に髪なんて気にしないでキシキシと鳴りそうなそれと違って、まるで女のよう。
摘んでは落とし、摘んでは落とし。
それでも眠り続ける碓氷の顔は、こうしてよく見てみれば綺麗な顔だと鮎沢は思った。


以前はしょっちゅう女を泣かしていたっけ。
告白の場面に居合わせた私も私だが、断り方が酷いんだか何だか、とにかく女子を泣かしてばかりだから、コイツに対してしょっちゅう苛立っていた気がする。
今だって苛立っている事には変わりないが。
そういえば最近は告白されているのかすら不思議な程に、そういう噂を耳にしなくなったな…。


そんな事を考えながら髪を掬い上げた時、肩がピクリと震えた。
伸ばしていた手を引き戻し、慌ててペンを握る。
別に卑しい事などしていたわけでもないのに、鼓動が大きくなる。

自分らしくない事だと、鮎沢はペンを置いて深く息を吐き出した。
そして静かに立ち上がると、上着を脱いで碓氷の頭をすっぽり隠してやった。
いずれ息苦しくなって目が覚めてしまえばいい。
鮎沢はそう小さく笑うと、校内の施錠見回りへ向かった。



「起きれるわけねぇー…」
呟かれたその小さな音は、吸い込まれるように生徒会室に響いて消えた。
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