GAME
その日は、いつもと変わらない1日のはずだった。
「ココにおったんか、手間掛けさせよって」
横暴とも言える言い草で登場したのはあの雅ヶ丘の生徒会長殿。
「五十嵐会―…「俺の会長に何か御用でも?」
何かあったのかと声を掛けると同時、後ろからグッと抱きしめられた。
視線だけを後ろに向けてみれば毎度おなじみの碓氷拓海。
五十嵐会長の方へきつい視線を送りながら、腕はきつく私に巻きつけている。
ムカついたので自由な足で奴の右足を思い切り踏み潰してやった。
「五十嵐会長、何か?」
碓氷から開放され、改めてそう問うと、五十嵐会長は私に目もくれず碓氷の方へ向かった。
「…あのー?」
「鮎沢美咲をかけて勝負や、碓氷拓海」
「…はぁ!?」
あ、頭でも打ったんだろうか?
コイツもいきなりこんな事言うキャラだったか?
驚いて碓氷の方を見てみればにやりと口角を上げて私を見る。
…本気で意味が分からない。
「受けてたちますよ、その勝負」
「おーい…」
おそらく私の意志はシカトの方向で話が進んでいるようだ。
場所は移り、生徒会室の応接用テーブルを挟んで2人掛けソファに私と碓氷、反対側の1人掛けソファに五十嵐会長。
先程まで碓氷は私を膝の上に乗せようとしてきたが、五十嵐会長のお陰で何とか普通に座らせて貰えた。
「で、あの…」
「勝負の方法はお前に任せるわ」
「あっそ」
「…おーい」
やっぱり私の意志はシカトの方向で話を進めるらしい。
「古今東西」
「は?」
「簡単でしょ」
「ちょっ、碓氷…」
「よっしゃ」
「や、そこ気合入れんなよ」
かくして、鮎沢美咲争奪、古今東西ゲームがココに始まった。
「(もうどうにでもしてくれ…)」
「先行は?」
「じゃんけんで決めよか」
いつにも増して真剣にじゃんけんを始める男子高校生2名。
「よっしゃ、お前が後な」
じゃんけんに勝ったくらいで威張る五十嵐会長。
これでも五十嵐財閥の次期総裁。
「別にお題が何であれ、俺の方が何でも知ってるしー」
自信満々にそう言い放つ碓氷拓海。
「って事で…」
『「古今東西、鮎沢美咲!」』
「はぁっ!?」
…どこまでも私の意志はシカトだそうだ。
「ほな最初、…ちょぉ気がキツイ」
ちらりとこちらに目線を向けるとニヤリと口元を歪める。
「分かっていても言われるとムカツクな…」
そう言う正確なのは自分でも分かっているが、他人に言われて笑顔で頷けるはずがない。
睨んで見れば横から腕が伸び、一瞬にして視界を奪われた。
横から、つまりは碓氷の右手が私の頭を抱えるように絡みつき、あの大きな手で暗闇を作り出している。
「ハイハイ、落ち着いて」
…視界を奪われてるのに、それこそ落ち着いてられないのが普通じゃないのか…!?
だからと言って抵抗する力はとうに失せている。
頭は抱えられているせいで、碓氷の方に凭れ掛かるような形になっている。
放さないならこのまま頭突きでも食らわせてやろうかな。
「…碓氷、手ェ放しぃや」
「あー、勝負の途中でしたねー」
白々しくそう言い放つと、私の視界はそのままに碓氷は立ち上がった。
そして今度は、ふっと視界が開けたと思った瞬間、全身が浮遊感に襲われる。
思わず目の前に見えた碓氷の首元へ縋りつく。
…まさか、お姫様抱っことか言うやつか…!?
そう焦る私を知ってか知らずか、碓氷はそのまま生徒会室の出入り口までつかつかと歩き出す。
そして扉の前で呆然とこちらを見ている五十嵐会長に向かって微笑んだ。
「鮎沢は俺の前だと可愛くナいてくれるの、…知らなかったでしょ?」
勝ち誇ったようにそう言った碓氷は、とても楽しそうだった。