地下救護牢シリーズA続・地下救護牢にて
6〜10話
続・地下救護牢〇七五番にて##H1##6話##H1##
傍にいる一護の問いかけにすら、雨竜はじっと俯いたまま、その顔を上げようとはしなかった。
俯いている視線の先にあるものは、細い腕には似合わぬ大きな手錠だった。
霊圧を封じるという、囚人の為の手錠………。
そんなものを使って拘束しなくても、今の雨竜は充分ダメージを受けているように思われた。
黒い手錠を嵌められた両腕は指先まで白い包帯に覆われていて、雨竜の受けた傷の深さをうかがわせる有様に、一護の胸は激しく痛んだ。
「石田……」
雨竜の前に跪き、長い前髪に隠された顔を下から覗き込む。
「本当に……どうしたんだ?」
「……………」
サラ…と流れ落ちる黒髪に囲まれた表情は、ひどく翳りを帯びていて。
一護はそっと雨竜の頬に手をあてて、冷えた肌を温めるように撫で上げた。
続・地下救護牢〇七五番にて##H1##7話##H1##
「何とか言えよ……なぁ……」
返事を促すようにそっと顎を取り上向かせると、雨竜は逆らわずに顔を上げた。
「石田……?」
だが、レンズの奥にある、いつもは剣のような鋭さを滲ませる切れ長の瞳には、覇気が全く感じられなかった。
一護は眉間の皺を思いっきり深くする。
――――なんで、そんな悲しそうな顔してんだよ?何がお前を苦しめてるんだ?
問いかけにも答えず黙りこくった雨竜の、憔悴しきった表情を目の当たりにして、何も手助けできない自分の無力さを痛感する。
話す事すら出来ない程に辛い出来事とは、一体何なのだろう…?
続・地下救護牢〇七五番にて##H1##8話##H1##
自分と離れていた間に何があったのか聞き出して、雨竜の苦しみを取り除いてやりたい……。
そんな気持ちに駆られたが、喉下まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。
無理矢理口を開かせる事で、これ以上、雨竜を追い詰めるような事はしたくない。
それに出来る事なら、雨竜自身から心を開いて話して欲しい…と一護は思った。
「石田、やっと……会えたな」
「………………」
「お前とはぐれちまって…、…正直…辛かったぜ」
「………………」
「ずっと、会いたかった…。ずっと……お前の顔見て、声が聞きたかった」
一護の大きく無骨な掌は、その見かけとは裏腹に優しく慰めるように雨竜の肌を撫でてゆく。
続・地下救護牢〇七五番にて##H1##9話##H1##
青白い顔に掛かる後れ毛を梳き、その輪郭を確かめるようにゆっくりと指で辿った。
「もっと、お前をよく見せてくれ……」
「………っ……」
露になった額にそっと唇を落とす。
そのまま伏目がちの瞼や鼻筋を通り、噛み締められて赤く色付いた雨竜の薄い唇に触れた。
唇を唇に擦りあわせて、ゆっくりと重ね合わせる。
しっとりと吸い上げて、柔らかく唇を咬み、吐息と舌でくすぐるような口付けを与えてゆく。
ただ触れるだけのキスは、雨竜を慰めるかのように甘やかで優しいものだった。
「俺を見てくれ、石田」
頬を包む熱い掌も、間近で見つめてくる琥珀色の瞳も、優しい温もりを雨竜に伝えてくる。
それは沈みこんだ雨竜の心をざわめかせた。
続・地下救護牢〇七五番にて##H1##10話##H1##
「………黒崎………」
「そうだ、もっと呼べよ。俺はここに居る……お前の傍に。だから、もう何も心配いらねぇ」
一護の力強い声が深く心に響いてくる。
伏せ気味の瞼を縁取る長い睫毛がかすかに揺れて、ゆっくりと雨竜の瞳が一護をとらえた。
「黒崎……」
「ああ」
「黒崎」
「おう!!」
「……僕も……ずっと……会いたかったよ」
「そっか……………ッえ!?」
雨竜は想いを噛み締めるかのように、囁くような声を唇にのせた。
「……苦しい時には、いつも……君の事を思い浮かべていた……」
「ぅわ……っ」
切なくなるような頼りなげな瞳を向けてくる雨竜に、一護はガラにもなく顔を赤くしてドギマギしてしまった。
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