思い出は色褪せぬまま
4話
◇◇◇◇◇
薄く茜に染まり始めた空が、周囲に夕暮れを告げていた。
幾分、以前より長くなったオレンジの髪を、丘を渡る初夏の風が緩く撫でていく。
立ち尽くす彼の足元、小高いそこの眼下から広がるのは、あの日、雨竜に見せてやると約束した向日葵畑だった。
どこまでも、見渡す限りの金色の海。
その合間を縫って鮮やかな緑の葉が茂り、瑞々しさに満ちた花の香りが、空気に甘く混じっている。
けれど、それをひたと見つめる一護の隣に、雨竜はいない。
「………約束したのに。嘘つきだな」
ぼそりと一人ごちながら、落ちてきた髪を掻き上げれば、ふと、傍らで仕方ないだろうと苦笑する雨竜の気配がしたような気がして、一護は瞳を眇めた。
脳裏に刻まれた記憶は、決して色褪せる事はない。
むしろ年を経るごとに、かえって鮮明になっていくような気もした。
結局――――――
雨竜と交わした約束は、一度も果たされる事はなかった。
『滅却師の誇りにかけて』
そう言って颯爽と駆け出して行く姿は、もう二度と見ることは叶わない。
彼の誇り高き魂は、激化する戦闘の渦に呑まれて永遠に失われたのだ。
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