勧誘!背中負うファーストライブ 2
3月某日。春休みに突入した新流星隊のレッド・グリーン・イエローは鉄虎の家で顔を突き合わせていた。今話し合っているのはファーストライブでのセットリストである。
時間が限られているため流星隊のライブパートでは多くても3曲ほどになる。
時間全て使って3曲歌うか、MCパートを設けて流星隊やユニットのキャラクターを知ってもらうか、悩みどころだ。

「オレたちまだトーク回すのは上手くないし…、ボケとツッコミと司会が出来た守沢先輩も、天然ボケキャラなのに周りが良く見えてた深海先輩もいないのに、いきなりうまいMCは難しくない…?」
「うーん、確かにそうでござるな…。でもでもっ、親しみを持ってもらうにはMCもすごく重要でござる。うーん…」
「絶対MCは入れるべきっス!何事もチャレンジっスよ!それに俺らアドリブは結構得意でしょ!」
「ええ〜?そうかなあ…俺はシナリオから外れるとテンパっちゃうけど…」
「うう、わかるでござる…。今まではミスしても先輩たちがフォローしてくれたけど、これからは咄嗟の判断は自分たちだけでやって行かなきゃいけないんでござるよね……ふ、不安になってきた……」
「何情けないこと言ってるんスか!男は度胸!そして根性!やるだけ努力して、あとは勢いっス!」
「そんな無計画な……」
「無計画じゃないっスよ。事前にきちんと綿密に計画は立てて、そのための準備も努力も怠らずにやって、本番は自信を持って挑む!ミスが起きてもどっしり構えて冷静に臨機応変に対処する。今までの先輩たちみたいに!」
「鉄虎くんが言うとなんかやろう!出来る!って思えて来るでござるね……!」
「いきなりそんな完璧には無理だよ…」
「完璧にじゃなくてもいいじゃないっスか!それに、今回のS1は成績には反映されるけど、1年メインだから評価も少ないし、校内の生徒だけのイベントだし、メディア展開はないし、失敗してもメリットしかないっス」

鉄虎の言葉にふたりは考え込む。
彼は言葉に熱が籠っていて、つい逃げ腰になってしまう翠や、悩んでしまう忍も鼓舞させられる。
「まあたしかにS3は手軽なライブだから心理的負担も小さいね…。ネット配信はされないの?複数が参加するイベントでしょ」
「確かされると思うでござる。でも配信する前に放送委員会で編集・チェックするし、そもそも録画や放映機材はうちのだし、遊木殿にお願いして流星隊の編集は拙者がやらせてもらうでござるっ」
「あ、いい考え……。委員会関係者が身内にいるって強いね……♪」
やる気を漲らせる忍と、嬉しそうな翠。鉄虎は「え、え〜…?なんかズルしてるっぽくないっスか……?」と少々煮え切らないの様子だが、乗り気になり始めたふたりをみて割り切った。

「じゃあ曲は2曲、間にMCを挟むってことで!う〜みゅ、次はどうするっスか?MCの内容?セトリ?パート分けとフォーメーション考えやすいのがいいっスよね」
「5人から3人に変えるって難しいよね。なんか参考とか出来たらいいけど……」
「ふふん。そう言うと思って拙者ちゃ〜んと準備してきたでござるよ!」
ドヤ顔で忍は鞄を掲げた。中から取り出したのはPCとUSBだ。
「これは?」
「これは過去の流星隊のライブ動画でござるっ!放送委員会は過去のログも全部残してるでござるよ〜」
「うわあっ、ナイスっスよ忍くん!」
「放送委員会ほんとに強すぎない…?」
「えへへっ、もっと褒めて欲しいでござる〜っ」
鉄虎と翠が歓声を上げ、忍が照れ笑いする。
3人の流星隊、不安はあるが、なかなかチームワークは良くなってきているようだ。


*


「ファーストライブ、かあ…。うちは出ないよな?」
「そうですね、新入生を指導する実力も余裕もないですし…」
「3人でやって行きたいんだぜ!」
Ra*bitsの3人はたいへん珍しく意見が揃った。いつもはそれぞれの意見が食い違うことが多いのだが、ユニットについてのスタンスは根底を同じくしている。
初期メンツの4人がRa*bitsだと。
仁兎なずなは今は学業に専念したいとユニットからは事実上抜けているが、でも、長期休業という形をとっている。
3人はなずながいずれ戻ってくると信じていた。

なずながライブで引退宣言をしたあと、ファンはざわついたし、3人も動揺したし、事務所からの声掛けもかなり少なくなってしまった。
そんなRa*bitsを拾ってくれたのはローシュタイン・プロダクションだ。
しかも、休業中でいつ復帰するか分からず、その上かなりのアンチを抱えるなずなのことも復帰を視野に入れた契約を提示してくれたので、Ra*bitsはすぐさまそれに飛びついた。
そのあとリズムリンクからもスカウトされたが、ロープロを選んだことに後悔はない。

「ファーストライブに出ないとなると、次のドリフェスはいつになるんだ?えっと…」
「去年ぼくたちがマーチングバンドで参加した桜フェスがありますね」
「それってDDDのあとだろ?ちょっと遠くないか?」
「早めに準備を進めるのも悪くないんだぜ!遠いって言っても1ヶ月しか時間ないもん」
「桜フェスはゲリラライブも出来ますしね。他には〜…あっ、掲示板にはフラワーフェスの募集がありますよ」
「あっ!あれは!?去年行った地方の桃の花祭り!今年も行きたいんだぜ〜!すっごく楽しかったから!」
「わあっ、いいですね!成長したぼくたちを見てもらいたいです…♪」
「待て待て、決定みたいな感じで話を進めてるけど、行けるかどうかは分からないからな〜?新衣装依頼しちゃったから、活動資金も減ったし」
盛り上がる2人に、現状をできるだけ冷静に把握するよう努めている真白友也が指摘する。
なずなが抜けたあとのユニットリーダーは、光と創の後押しもあり友也が務めることになっていた。以前からメンバーのストッパーになっていた友也だったが、以前にも増して広い視野を手に入れようと努力している。

「まあ、とは言え俺も出たくないわけじゃないから、桃の花ライブは先生に頼んで先方に確認してもらおう。それに俺たちはもう正式に事務所に所属したんだし、ドリフェス以外の活動も評価してもらえるだろ?」
「そっかあ、ぜんぜん気付かなかった!さっすが友ちゃんなんだぜ」
「ぼくたちが気付かないことにも目を向けられて、とっても頼もしいです」
「や、辞めろよ…」
友也は眉を下げてたじろいだ。素直な賞賛はくすぐったい。
「と、とにかく!事務所からの仕事も考えていかないとな。俺たちまだまだ実力不足な子うさぎユニットなのに、ロープロは歩合の他に月給でも契約してくれてほんとにありがたいよ」
「本当ですね。ぼくたち本当に新人なのに、もうマネージャーさんをつけてもらえるっておっしゃってましたし」
「どんな人なんだろっ?楽しみなんだぜ!」

新年度初のイベントは見送ることに決めたRa*bits。そのぶん、ひと足早く次のライブのことや、事務所のことを考えられる。
頼もしいに〜ちゃんを頼れなくなった子うさぎたちは、少しずつ社会に揉まれようとしていた。


*


朱桜司は考え込んでいた。
唯一の騎士王月永レオも、王がいない間ユニットを導いてくれた瀬名泉も、卒業してイタリアへ旅立ってしまった。
Knightsとして活動は続けてくれる意思はあるようだし、新設したばかりの事務所だと言うニューディメンションへの所属も決定している。
だが、拠点を海外に移してモデルと作曲家としてスタッフアップを狙うレオと泉は実質活動休止のようなものだ。

春休みが開けてすぐに新入生を対象に行われる、校内ドリフェスS3【ファーストライブ】の話を聞いて、司はKnightsがこれからどういうユニットになっていくべきか思い悩んでいたのだった。

3年生になった凛月や嵐を差し置いてKnightsのリーダーは司が務めている。それはとても光栄なことだと思っているし、背筋が伸びる思いで努力するが、今までKnightsやその前身を支えてきたのは先輩方だ。司は思いを繋げていきたいと、そう思う。

「いいんじゃないかしらあ、司ちゃんの好きなようにして」
「うん、俺たちはそれに従うよ」
司の訥々とした思いに反し、ふたりの返事は些か軽すぎるものだった。
「おふたりとも、きちんと考えてください!同じunitのmemberですのに、何故そのように他人事なのですか」
ムッとして司は言い返す。そして同時に悲しい気持ちになった。司はレオや泉が卒業するずっと前からKnightsのことを考え続けているというのに。
「あら、言い方が少し悪かったわね。ごめんなさい。でもね?司ちゃん、あたしたちは何もKnightsがどうでもいいと思ってこんな風に言うわけじゃないのよ?」
「どういうことですか?」
不思議そうな司の顔にふふっと嵐が笑いかける。

「この1年で司ちゃんはとっても大きく成長してくれたわ。王様が玉座を明け渡すくらいにね。アタシたちも司ちゃんにならKnightsを任せられると、ついて行きたいと思ってるのよ。だからね、あなたが決めたことならアタシは黙って従うわ。司ちゃんを信じてるもの。Knightsの未来をより良いものにしてくれるって」
「そうそう〜。もちろん任せっぱなしにはしないよ?ス〜ちゃんが築き上げるKnightsのために、俺たちは全力でス〜ちゃんに尽くしていくよ。だから、ス〜ちゃんがしたいようにしていいんだよ」
「鳴上先輩、凛月先輩……」
司は思ってもみなかった暖かくて力強い言葉に俯いた。
「申し訳ありません、司は思い違いをしておりました……。お兄様がたがこんなにもKnightsのことを想って、司のことを信用してくださっていたのに……」
「いいのよ。どんどん大きくなっちゃって少し寂しかったけど、まだまだアタシたちが必要だって嬉しくなっちゃうわ」
「ス〜ちゃんのことは俺たちがゆ〜っくり時間をかけて、さらに育ててあげないとね」
「むう……目をかけてもらえるのはありがたいのですが、未熟者だと思われるのは情けないです……」

少し不満げにしながらも司は気を取り直した。
自分の考えをゆっくりと語っていく。
「私はKnightsを昔のような巨大な強豪ユニットに戻すべきだと考えております。卒業後、Knightsとして今の5人でデビューするお話をいただいていますので、昔のチェスのように……いずれはほかのメンバーをいくつかのグループに分けながら、Knightsやチェスの精神を学院に残していきたいです。もちろん、新メンバーを加入されるのは不安も大きいですが…。でも歴史あるunitであるKnightsを今、の私達が私物化するようで少し心苦しくもあったのです」

そこで区切っておずおずとしながらも、まっすぐした瞳で司は射抜く。
「……凛月先輩、鳴上先輩。不肖の身ではありますが、Knightsのleaderに相応しく在れるよう精進して参りますので……。司の作るKnightsについてきてほしいです」

鳴上嵐がウィンクを飛ばし、優雅に胸に手を当てた。
「当然よォ、アタシたちの可愛くて凛々しい王様」

朔間凛月が妖しい微笑みを浮かべて司の手をそっと取った。
「俺たちに任せて、まっすぐで誇り高い我らの新しい王よ……♪」



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