05

「MVPと迷ったが、蛙吹少女!とても良かったよ。常闇少年と常に連絡を取り続け、互いの状況を把握しようと務めたこと。ドアに張り付くのは少々軽率だったが、中の様子を伺い、弛緩した空気を利用したこと。わざと存在を知らせることでフェイントをかけ、死角から上手く舌を使いドアを開けて切島少年を誘導したクレバーな立ち回りと機転。攻撃力に欠けながらもその弱点を補う、机を投げて視線と集中力を逸らすという冷静さと技術。
 時間が少なく攻めあぐねたからこそ今回の結果だったが、これと言ったミスも少なく、今できる最大限を発揮出来たと言っていいだろう!MVPを2人にしたいくらいだ!課題も見えただろうから、これからもよく努めなさい」
「嬉しいわ、ケロ……」
 舌をペロッとだして蛙吹は頬を染めた。

「常闇少年も蛙吹少女を庇い先導させたのはクレバーな判断だったね!2人で足止めされるよりよっぽど良い!白凪少女の猛攻を受け切った戦闘力も評価に値するよ。でも課題はバトルに熱くなりすぎたこと、一直線になりすぎたことかな。
 君の"個性"なら2対1の立ち回りに出来たはずだ。奇襲で捕縛という選択肢を取れたかもしれない。その選択肢を取らせなかった、深く思考する間を与えず自分のペースに引き込んだ白凪少女が今回はリードだったね」
「…省みよう」


 最後のペアも終わり、教室で各々反省会を開く。緊張した空気が途端に弛緩し、一気に教室は騒がしさを取り戻した。
「白凪さん!めっちゃいい動きやったね!」
「なにか格闘技とかやってる?」
「すまねえ白凪!おめえのくれたチャンス活かせなかった!わりい!」
 刹那はわっと囲まれてしどろもどろになった。
「格闘技は少しだけ……」
「やっぱり!」
 色素の薄い男の子が喜色の滲んだ声を上げた。太いしっぽが揺れている。
「俺も武術嗜んでるんだ。仲間がいて嬉しいよ」
 格闘技は好きだ。刹那のは様々な武術をぐちゃぐちゃ齧って取り入れただけのものだから武術という程昇華されていないが。
「わたしはカポエイラ少しやってる…」
「兎だもんね。ぴったりな武術だと思う。俺は空手とか柔術かな。白凪さん今日の訓練でもすごく活かせてたし、すごいと思ったんだ」
「ありがと…」
「俺は轟に凍らされて何も出来なかったからさ…」
 ハハ、と笑って頭をかいていたが、その顔には悔しさが滲んでいたので刹那はなんと言って良いかわからずに、口元で言葉をもごもごさせた。
「わたしもー!なんも出来なくて悔しいー!轟くん激強すぎだよー」
 制服だけ浮いた女の子も会話に加わって、刹那は少しだけ会話に混ざった。葉隠はよく喋ってリアクションが大きいので、刹那が特に喋らなくても会話が盛り上がる。刹那とは真逆の人間だった。
「今日どうすれば良かったかなー」
「うーん、難しいよね…。悔しいけどレベルが違うってほんと見せつけられた」
「轟くんには勝てないなって…おもった…」
「凍らされたら何も出来ないし…足の裏剥がして無理やり戦うしか選択肢ないよね」
「わたし裸だから余計痛かったよー」
「遠距離攻撃とか…」
「俺は近接向きだからなあ」
「わたしも…」
「私はそもそも偵察ガールだもん。厳しいよー。あーあ、あんなチート"個性"ずっこいよ!しかもイケメン!あれはモテただろうなー」
「も、モテ…?」
「恋とかしたことあるかな!?えー!気になる!ね、白凪さん!」
「う、うん…」

 話題もころころ変わっていくので着いていくのも大変だった。飽き始めた刹那が少しぼーっとしていると、違う話題に変わっている。今は雄英の話らしい。
「だからー、雄英って秘密の部屋とかありそうじゃない?めっちゃ広くて迷路みたいだし!」
「確かにとっておきの場所が隠されてそう…」
「ねー!だよね!探検したい!」
「大冒険だね…。雄英って地図とかないのかな…迷っちゃうよね」
「えーわかる!わたしこの前3年用の特別教室行っちゃった!そんで3年生に連れてきてもらった」
「メンタル強過ぎない?なんか葉隠さんらしい…。でも学内マップとかありそうだけどね」
「ねー」
「あれ、知らねえ?ホームページで学内ID入れると雄英生向けのサイトに繋がるぜ?」
 会話に反応した切島がパパッと携帯を操作すると、確かに外部向けでは無いリンクに繋がった。新聞部や生徒によるコンテンツや掲示板もあって、刹那は口を綻ばせた。
「ホラ、これ」
 画面には雄英の学内マップや、特別教室やトレーニングルームの空いている時間などが詳細に示されている。
「わー!ホントだ!!知らなかった!」
「知り合った先輩が教えてくれてさー。かなり便利だぜ、これ」
「ありがと…」
 助かった。本当に欲しいと思ってたの。刹那は嬉しくなった。

 人が増えてきたので刹那は曖昧な笑みを浮かべて退散し、席に着くとゆっくり息を吐いた。こんなに人と喋ったのは久しぶりなので少し疲れていた。
 ふと陰が射し、刹那は億劫な気持ちを隠しながらおずおずと顔を上げる。
「おつかれ。白凪って優秀なんだな〜」
「……ありがと…」
 金髪の男の子、上鳴電気は耳郎の椅子にどかっと腰を下ろすと、肘をついてにししっ、と笑った。
「作戦立てたの白凪なんだろ?すげーよなあ。頭いいの?」
「ふつう…」
「俺なんてアホだからさあ!全然そーゆーの向いてなくて!今日も耳郎に引っ張ってもらったよ。ま、俺は?あいつのこと守ってやったけど?」
 刹那が何も言わなくとも上鳴はべらべらとよく喋るので楽だった。しばらくすると強ばっていた刹那がゆっくりと表情を柔らかにするのを見て、上鳴は本題に切り込む。
「なー、飯とか何好き?」
「ごはん…?」
「そー!ご飯!好きなもんある?兎だから野菜とか?」
「別に特別野菜が好きってわけじゃないよ…」
 脈絡ないなあと思いつつ刹那は首を捻った。好きな物…食べ物…。
「ケーキとか甘いものかな…美味しかったらなんでもすき…」
「俺もなんでも好き!やっべ気ィ合うんじゃね?甘いモン好きならさーこれとかどうよ?この前原宿にオープンしたとこ!」
 ズイっと差し出された画面を覗き込む。彩が鮮やかなパンケーキや生クリームで飾られたパフェ。内装は派手過ぎず茶色とオレンジでまとめられている。
「かわいい……」

 思わず声を漏らすと上鳴が「だよなー!気に入った?」と顔を覗き込んだ。
「良かったらだけどさ、ここ一緒に行かね?んー、金曜の放課後とか」
 なぜ自分を誘うのか分からずに、刹那は無言で上鳴をじっと見つめた。上鳴は「ど…どした?」と戸惑って首を傾げた。
「ワリ、いやだった?ムリには誘わないから素直に言ってな?」
「ううん……」
 上鳴には邪気がないきがした。少なくとも今まで刹那の傍に近寄ってきた男とは瞳が違う。それに刹那はこのクラスに早く馴染みたかった。
 彼の誘いを断る理由は特にないと思えた。
「行く…」
「えっ!?いいの!?」
「うん…」
「マジ!?今の完全に振られる流れだと思ってた!ウワー!なんか嬉しいわ!なんでOKしてくれたん?無理してねえ?」
 ひとしきり1人で騒ぐと思い出したように彼は尋ねた。

「早くみんなと仲良くなりたいし…でも大人数だと恥ずかしいし…」
 刹那の声は小さく、ボソボソ喋るので聞き取りづらい。考えながらゆっくり話すので他人からはモジモジしているように見えるし、ぶりっ子と思われることもある。
 でも上鳴は「うん、うん」と、刹那の目を見て一生懸命話を聞き逃さないようにしてくれている。刹那は胸のところがほわっとするのを感じた。
「上鳴くんはいい人だから仲良くなりたいと思った……」
 はにかむ刹那に上鳴は手のひらで顔を覆った。
「待って…やばい…えー調子乗るわ俺…」

「そこウチの席なんだけど」
「でっ!」
 俯いたまま余韻を噛み締める上鳴の椅子をガッ!と蹴りながら耳郎がやってきた。
「てめー耳郎!」「邪魔」
 どけろ、と親指でクイッとされて、ぐぬぬと唸ったが耳郎には勝てないと項垂れて上鳴は立ちあがる。
「そんじゃ白凪、週末な!俺予約しとくからさ」
「ありがと…」
 跳ねるような足取りの上鳴の背中を横目で見つつ「何の話?」と耳郎が言う。今の流れを説明すると耳郎は顔を思いっきり顰めた。
「2人?ガチ?あんたいいのあいつで?」
「なにが?」
「なにがって…デートでしょ?」
「デート……?デート……?デート……?なの…………?」
 頭に宇宙猫が浮かんだ刹那に耳郎は半笑いで溜息をついた。
「そーいう感じね。まあ楽しんできなよ」
「うん」
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