昔住んでいたのはとても寒いところだった。
冬はいつでも雪が降っているようなところだった。
冬はつらかった。
あのえぐるような寒さと晴れない気圧とにやられて半分は寝込んでいるようなものだった。学校をサボれるのは嬉しかったけど、重いからだや苦しい呼吸はやっぱり心地よくはない。
でもあそこには確かにあいつが居たから、俺はあの地を離れることが出来なかったし、離れたくなかった。
幼なじみのそいつは、有無を言わさず俺の家に押しかけてくる。だから俺はいつだってそいつに会えた。
いつの日か、どこからどうやったのかも忘れてしまったけれど、二人で俺の部屋にこたつを持ち込んだ。
それ以来俺たちはそのこたつでばかり過ごした気がする。そこアイスを食べたり、色んなことを話したのをよく覚えている。
それなのに、俺はあの地を離れることになった。親が転勤する事になって、子供の俺はついて行くしかなかった。抵抗したって無駄だった。
新しい土地は、暖かいところだった。
体調を崩す回数は驚くほどに減った。
あいつはそれを聞いてとても喜んでいた。
あの時の俺にはそんなの、どうでも良いことだったのに。
しばらくの時が過ぎて俺はやっぱりこの土地が心地よくなった。楽な生活に慣れてしまった。
昔のことは少しだけ忘れた。
大人になって、自由になって、久しぶりにあの地を訪れてみようとふと思い立った。季節は冬を選んだ。
空港に降り立った瞬間に襲われる痛みのような空気の冷たさや風の鋭さが懐かしいというよりも恐ろしく、ここに来たことを少しだけ後悔する。
ぼんやりとしか記憶がないのにあの町に続く道だけははっきり分かった。
この門を曲がれば、昔俺の住んでいた家で、その隣は、
「…シズ、ちゃん」
「いざや…?」
霞んでいた記憶が、濁流みたいな勢いで、押し寄せて、鮮明になっていく。
何でかはさっぱり分からないけれど、馬鹿みたいに涙が止まらなくて、俺はシズちゃんに駆け寄った。
抱きつきたくて、でもそうするには時間が経ちすぎていて、俺は恐る恐る手を伸ばした。
(幼なじみパロ)
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このあとシズちゃんは抱きしめてくれるかもしれないし、もしかしたらもう結婚しているかもしれない。