06

 今から体育祭が嫌で仕方ないと思っていたら、笛の音が聞こえた。音がした方を見てみると、どうやらリレーの練習があるらしい。

 今日は練習日だったが、実際あまり練習と言う練習はしない。殆どが説明のみで終わる。学年種目は軽く練習するようだが、夏希達は既に学年種目の練習を終えていたから、今はやることが無くて暇だった。

 係や委員会によっては体育祭の時に準備を任されたり、引率をする場合もあるからその説明も必要だったが、菖蒲と夏希の係や委員会は何も仕事など無い。

 そもそも仕事がある方が稀なのだ。

 だから二人みたいに暇を持て余している人は何人も居た。それでもまだ説明を受けている人や、練習している人が居る為教室にも戻れやしない。

 早く終わらないかな、と思いながら菖蒲と話していたところで先程の笛の音だ。


「他のはしないのに、リレーはちゃんと練習するんだ?」
「リレーはメインみたいなモノだからじゃないかしら」
「へえ」


 やることもなくて暇だから練習のリレーを見ようと思った。練習とはいえ、それなりに本気でやるだろうと思ってのことだ。

 そう思った者は多いようで、リレーをする場所には多くの生徒が集まっている。何かもう、本番のような雰囲気だ。

 菖蒲と夏希は見やすい場所に移動し、リレーを見ることに。

 入場からしっかり練習するらしく、入場するところには各クラスのリレー出場者の男女六人が並んでいた。

 今から練習するリレーは、男女混合のものらしい。勿論男子のリレー、女子のリレーはあるが、体育祭で最も盛り上がるリレーは男女混合のものなのだ。

 奇数を女子が走り、偶数を男子が走る。女子が走る距離は三百メートルトラックの半周、つまりは百五十メートルだが、男子は三百メートルトラックを一周走らなければならない。

 しかもアンカーを走る男子は二周走るのだ。六百メートルを全速力で走るのは、よほど体力がないとキツいと思う、いや、体力があってもキツいけれど。

 体育が可も無く不可もなく、しかも走るのはどちらかと言えば嫌いな夏希にとって、リレーなんて出ようとも思わない種目だった。しかも目立つし。


「そういえば、うちのクラスから誰が出るんだっけ?」
「確か……女子が佐伯さんと中西さんと深江さんで、男子が小泉と谷中と朝比奈みたいね」
「アンカーは、朝比奈?」
「でしょうね。クラスで一番早いのは朝比奈だもの」


 確か体力測定の時、丁度男子が五十メートル走をしている場面を見た。その時の朝比奈はとても早く走っており、女子が騒いでいたような気がする。


「このリレー、勝てるかな?」
「どうかしら。……夏希、始まるわ」


 菖蒲の言葉で夏希はスタート位置に目を向けた。そこには既に第一走者が立っており、スタートの準備をしていた。

 一番手の女子はトラックの外側になるほど走る距離が短くなる。一番手は自分のコースを外れてはいけないという決まりなので、不公平じゃないようにするためだ。

 夏希達のクラスは第四コースだった。何だか微妙である。


「一番手は中西さんなんだね」
「ええ。二番手は谷中で三番手が深江さん、四番手が小泉で五番手に佐伯さん。で、最後のアンカーが朝比奈っていう順番になってるみたい」
「佐伯さん五番手なんだ。まあ、彼女陸上部だからね」
「うちのクラスは最後の方に勝負を賭けるのね。大丈夫かしら?」
「どうだろ……ていうか、これって本気で走るの?」
「さあ?」


 菖蒲がさほど興味なさそうに夏希に返した時。ピストルを持っていた係の教師の声が響いた。


「位置について」


 騒がしかったこの場が、一気に静まり返った。そしてスタート前の嫌な緊張感が漂う。

 余談だが、夏希はスタート前のこの雰囲気があまりで好きではない。早くスタートさせろよ、とそういう気分になるのだ。


「よーい」


 手に持っていたピストルが、頭より高く上げられる。二拍くらい間が空き。

 ――パァンッという音と共に、一番手の女子は勢い良く走り出した。
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