05

 五月中旬。桜も散り、緑が繁る時期。少しずつ気温は高くなっているとはいえ、今はまだ快適だと思えるような温度が続いていた。

 今日は一週間後に控えている体育祭の練習日だった。と言っても練習するのは今日一日だけなのだが。


「高校ってさ、結構適当だよね。中学校の時はもっと沢山、練習時間があったような気がするんだけど」
「高校は義務教育じゃないからじゃない?」
「そうかも。まあ、私としては楽だから良いんだけどね。体育祭はあまり好きじゃないし」
「同感ね」


 体育は可もなく不可もなくといったところの夏希にとって、体育祭などそんなに盛り上がれる行事ではない。出来れば参加せずに、応援だけしていたい行事である。

 それは菖蒲も同じだった。

 しかし残念ながら、星蘭学園の体育祭の競技は、在籍する生徒が全員参加できるようにと人数が計算されているので、最低でも一種目は参加しないといけなかった。

 ぶっちゃけ夏希や菖蒲のような生徒には有り難くない心遣いだ。


「体育祭なんて面倒なだけよ。日に焼けるし」
「……っても、菖蒲は玉入れでしょ? 楽で良いなあ……私も玉入れが良かった」
「仕方ないじゃない。夏希ったらジャンケンで負けるんだもの」
「……うう」


 当たり前だが、練習日の前に種目を決めておかなければ練習は出来ない。と言うことでついこの間体育祭の種目を決める時間があった。

 そこで夏希と菖蒲は同じ種目に出ようと画策していた。やるなら友人と出たいと思うのは、女子なら有り触れた思考だと思う。

 そして出来るだけ楽な種目をやりたいと思うのも、当たり前のことだと思う。それなので夏希と菖蒲は玉入れに出たかった。

 しかし考えることは皆同じで。玉入れに参加できる人数をオーバーしてしまい、選手は最も一般的にジャンケンで決めようと言うことになった。

 その結果菖蒲は勝ち、夏希は負けたと、そういうことである。

 負けたのだから夏希は玉入れ以外の種目に出なければいけなくなった。その時には既にほとんどの種目が埋まっていて。残っていたのは二つのみ。

 それは――。


「……出たくなかったのに、借り物競争」
「正確には借り“人”競争だけどね」


 借り物競争ならぬ、借り“人”競争。そして長距離。残っていたのがこの二つしかなくて、夏希は迷った末に借り“人”競争に出ることに決めたのだ。

 どちらも嫌だったが、走る距離が長い長距離の方が嫌である。

 借り“人”競争――それは、名前の通り借り物競争の人間版だった。

 つまり途中まで走ってお題が書かれている紙を拾い、その紙に書かれているお題に合う人間を連れてゴールまで走ると言う競技。

 説明すれば、意外と嫌がるほどのものではないと思われるが、そうでもない。夏希がこの競技を嫌う理由は、一番重要なお題にあった。


「時々係の人がふざけて紛れ込ませるお題が嫌」
「定番らしく『好きな人』とか『格好良いと思う人』とかあるらしいわね、これ」
「でしょ? 競技なんだからちゃんとやってほしいの。笑いとかいらない」
「見てる分には楽しいけど」
「出る私は楽しくない!」


 お題は先生ではなく、生徒会が作っているらしい。その生徒会が場を和ませるためだか何だかの為に、時折菖蒲が言ったようなお題が紛れ込んでいることがある。

 男子の時にそういうお題が出れば良いのだ。男子は、こういう種目に出る者は大抵ノリの良い人間で、ふざけて男子を連れて行ったりするから。

 しかし女子でノリが良い人間はあまり居ない。場を沸かせるのは大体男子であり、女子ではない。

 当たる可能性は少ないが、当たらないとは言い切れないため、夏希はこの競技に出たがらないのであった。


「去年友達がネタ的なの引いてたしさ……本当に嫌なんだけど」
「仕方ないわよ、夏希がジャンケンで負けたのがいけないんだし。まあ当たらないように祈っときなさいな」
「祈れって……祈ったくらいで当たらないなら、いくらでも祈るのに……」
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