04

 彰悟はこれ以上四季に聞いても無駄だと分かったのか、黎がこちらにやってきたと同時に黎に飛びついた。


「黎! 君、何で俺に教えてくれないんだ!」
「は? 何言ってんだよ、彰悟。頭でも可笑しくなったのか?」


 やってきた途端に言われた言葉に、黎は怪訝そうな顔をする。会話が聞こえていなかったんだろうから、その反応は正しいと思う。


「酷っ! ってそうじゃなくて、黎ったら好きな人が出来たんだって? 相手は誰? 隠すのは無しで!」
「好きな奴? 誰だよ、それ」


 一応黎に気を使って小さな声で問いかけた彰悟に、黎は不機嫌になる。声が少し低くなった。

 そんな黎に怯えたのか、彰悟は四季を指差して「四季が言ったんだよ!」と全ての責任をこちらに押し付ける。四季は口を引きつらせながら、次からは彰悟には教えないと心に決めた。

 黎は不機嫌そうなまま四季に近づき、言う。


「おい、四季! 誰が好きな人出来たって? 勝手なこと言うなっての!」
「どーだか?」
「四季!」


 怒っている黎にそう返すと、黎は余計に怒った。しかしその様子が照れ隠しだと思ったのか、彰悟がやはり居るんじゃないかとしつこく黎に問いかける。


「……」


 そんな中、四季は黙りこくっていた拓弥に気付いた。暗い顔をしている拓弥に近づき、四季は彼に笑いかける。


「拓弥、チャーンス」
「……四季」
「黎にも好きな人が出来たっぽいからさ、拓弥も頑張れば妃芽に振り向いてもらえるかもよ?」


 四季は拓弥にしか聞こえないような音量で言った。拓弥は少しの間四季の言葉が理解できずにキョトンとしていたが、やがて苦笑した。


「僕は妃芽を応援したいんだよ。……四季の言ってる黎の好きな人かもしれない子って、妃芽じゃないんでしょ?」
「まあ、否定はしないけど……ていうかどうして拓弥はそうなの。妃芽を応援するんじゃなくて黎を応援して、妃芽には悪いけど失恋してもらって、それで悲しんでる妃芽を、拓弥が慰めればいいじゃん」


 四季なら絶対にそうする。よく漫画やドラマで好きな人が幸せなら、と身を引く人が居るが、四季にはその者の気持ちがさっぱり分からない。

 何だかんだ言っても一番大切なのは自分だと思う。我が身が一番大事。それは当たり前だ。それなのに自分からわざわざ傷つく道を選ぶなんて、マゾか。

 失恋なんてしたくない。好きな人とは付き合いたい。そう思うことが摂理なのに、どうして拓弥はそうじゃない。何で身を引こうとする。

 納得できずにいると、四季の心情を読み取ったらしい拓弥は微笑んだ。


「妃芽には笑っててほしいんだ」
「拓弥が笑わせてあげたら良いでしょ」
「僕には無理だよ。だって妃芽、黎を話してる時、とても嬉しそうに笑ってるんだ。僕にはさせてあげられない顔だから。だから、駄目」
「そんなの、これからさせてあげられるようになれば良いんだよ。それなのに拓弥は、もう……」


 何でそんなに消極的なのか。四季は人知れず溜息を吐いた。もう少し積極的になって妃芽にアタックして、振り向かせば良い。

 そしたら黎が好きな人と付き合って、妃芽と拓弥が付き合って、由貴と彰悟が付き合って。独り身が自分だけになるけれど、全部上手くいくのに。

 ただし、四季の親友の恋が、だが。


「折角応援してくれたのに、ごめんね? 四季」
「謝らないでよ。別に良いから」


 応援という応援はしていない。ちょっと拓弥に有利になる情報を教えただけで、応援と呼べるのかどうかも分からない。

 拓弥は四季の言葉に笑み、まだ騒いでいる彰悟と黎の会話の中に入っていく。これ以上この話題を続けたくないとでも言うかのように。


「妃芽を応援する、ね……」


 拓弥には悪いが、四季の優先順位的にはやはり、親友と呼べる彼らの方が上だ。だから、自分が応援すべきなのは――。


「俺は親友に幸せになってほしいんだよ、拓弥」
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -