03

 七海四季は、朝比奈黎や橋岡拓弥、斉藤彰悟とは親友といっても良いほど仲が良かった。更には去年同じクラスだった佐伯妃芽や飯野由貴とも仲良しだ。

 皆が皆、一方通行な想いを抱いている中、ただ一人全く関係のない四季は周りの感情の変化にとても敏感だった。

 だから妃芽が黎を好きになったことにもすぐに気付いたし、その前から拓弥は妃芽を好きだったことも知っている。

 妃芽が黎を好きになって、自分達と仲良くなってから由貴が拓弥に惹かれていったことも分かったし、彰悟が由貴を気にしていたことも見抜いていた。

 そして――。


「……」
「ん? どうかした、四季?」


 四季がボーっと自分達ではない方向を見ていることに気付いた彰悟が、四季に問いかけた。彰悟と話していた拓弥も、つられて四季を見る。

 四季は二人の視線に苦笑しながら、ここから少し離れた場所で話している黎と妃芽を指差した。


「何話してるんだろうと思って」
「妃芽と黎? ああ、今日学校が終わった後に行く映画のことじゃない? 四季は来られないんだっけ?」
「あー、うん、まあ残念ながら用事があってね」


 本当はそんなものは有りはしなかったが、これは四季の気遣いだった。

 好きな人とはなるべく一緒に居させてやりたいが、妃芽と由貴は二人なのだ。そこに四季が入るのは良くないと思う。まあ、面倒ということもあったが。

 しかし四季が気を使ったところで、黎が妃芽の誘いを受けたら意味がない。寧ろ人数が奇数になって、微妙になるだろう。今更行くともいけないし、その場合は仕方ないということで。

 だが黎と話していた妃芽は、やがて落ち込んだような表情を見せていた。ということは、黎が空気を読んで断ったのだろうか。

 空気を読むことはとても良いことだと思うが、妃芽的には空気を読んでほしくなかったんだろうなあ、と四季は妃芽の表情から思った。

 妃芽は自分達の誰よりも黎と行きたかったわけであり、その黎が来れないと知ったのだから、そりゃがっかりするだろう。

 そんな妃芽に苦笑した黎が、彼女の頭を撫でていた。妃芽はいきなり頭を撫でられて、照れたように顔を紅くしている。うん、可愛いとは思う。

 少しだけ元気になった妃芽だったが、そんな妃芽とは対照に、暗くなっている人物が居た。


「……」


 それは先程も言ったとおり妃芽を好きな拓弥だ。好きな人が別の男に、それも友人に頭を撫でられて嬉しそうにしていたら、それは落ち込むだろう。四季はそんな目に合ったことがないのでよく分からないが。

 彰悟も拓弥の様子に気付いたのか、何ともいえない顔をして四季を見ていた。いや、見られても、とは思うが発端は自分なのだから少しは罪悪感もある。

 だから四季は、手に入れたばかりのとっておきの情報を、拓弥に教えることにした。


「拓弥、落ち込まないの。とっておきの情報教えてあげるからさ」
「とっておきの情報って……何それ?」
「俺も気になるんだけど!」


 四季の言葉に不思議そうに首を傾げる拓弥に、四季の情報が気になるのか、勢い良く手を上げた彰悟。四季は二人の反応の違いに笑いながら、二人にしか聞こえないように声を潜めて言った。


「まだ確信はないけどさ、多分黎にも好きな人、出来たと思うよ」
「え、嘘」


 思わぬ情報に、拓弥も彰悟も目を見開いた。やはり二人は気付いてなかったらしい。黎は分かりにくいところがあるから、無理はないとは思うけれど。

 拓弥はともかく、彰悟は黎の好きな人が好きな人が気になるようで、興味津々に四季に尋ねる。


「黎に好きな人? 誰々?」
「いや、それは言わないけど。言ったでしょ、確信はないって。多分だよ、多分」
「でも限りなく確信に近い多分だろ? 俺達は親友だろ。だから教えて!」
「えー、プライバシーってことで秘密」
「ここまで言っておいてプライバシーって何だよ! 気になる!」
「本人に聞きなよ、丁度黎がこっち来たしさ」


 そう言って四季が指差した方向には、黎がこちらに近づいてきているのが見えた。
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