02

 黒ぶち眼鏡をかけ、既にクラスのムードメーカーになりつつある男子、斉藤彰悟。男子とも女子とも仲良しで、二週間にして既にクラスの中心となりつつある。

 そんな彰悟が見るのは由貴。由貴が見るのは拓弥で、拓弥が見るのは妃芽。そして妃芽が見るのは黎。

 救いようがないくらいドロドロの泥沼の中に居る彼らだが、何よりも夏希がキツいと思うのは、彼らは特に仲良しだということだった。

 せめて恋敵が見知らぬ他人だったなら、少しはマシだろう。誰かの恋が実って誰かの恋が実らなくても、見知らぬ赤の他人なら罪悪感も少ない。

 だが恋敵が仲の良い友人だったなら? 親友とも呼べるくらい仲良しな相手だったら?

 気まずいなんて言葉では済まないだろう。下手をすれば、友情がそこで終わってしまうかもしれない。

 せめてもの救いは黎のグループに居る最後の一人、七海四季がこの泥沼の五角関係に参加していないことだろうか。後は黎が今のところ好きな人が居る素振りを見せないこと。

 今のままでも凄まじいのに、この上二人が参加したら凄まじいなんてものではない。

 だが、もし。今は一方通行で済んでるから良いものの、この関係が崩れてしまったら。

 例えば黎に、妃芽以外の好きな人が出来て、その人と付き合うことになったら。

 この泥沼な関係はそう変わっていくのだろうか。


「夏希」
「……あ、菖蒲」


 彼らの関係を考え、複雑だなと他人事のように思っていた夏希を呼んだのは、夏希が親友だと思っている女子、東海林菖蒲だった。

 彼女とは小学校の時からクラスが同じで、知り合ってから離れ離れになったことはない。誰よりも長い時間を共有している親友、夏希はそう思っていた。


「何、菖蒲?」
「何を見ているのか気になっただけよ。……彼らを見てたの?」
「うん。……それにしても菖蒲、彼らは互いに一方通行の想いを抱いてるって、本当に間違いないんだよね?」
「何? 誰か疑わしい人でも居たの?」
「別に居ないけど……よく分かったなあって思って」
「見てたら結構分かるわよ。分かりやすいもの」
「そうかなあ……私は言われるまで分からなかったけど」
「そうでもないわよ」


 実を言うと、夏希は初めから彼らの好きな人を知っていたわけでも、自然と気付いたわけでもなかった。

 全ては菖蒲から教えてもらったこと。菖蒲はあそこのグループは泥沼じゃないかしら、と一番最初に言い、それを信じられなかった夏希が彼らを観察して事実だと知ったと、そういうわけだった。

 だって初めに信じられると思うか。まさか漫画の中であるような泥沼な関係が、現実にあるだなんて。

 今はまだ絶対だとは言いきれないが、ほぼ確定だと夏希は思っている。表情や互いを見る回数や、その他諸々な情報から、殆ど間違いないはず。


「しかしあの人達も大変だね……友達の好きな人が友達なんてさ。気付いてるのかな? 互いの好きな人に」
「そうねえ……気付いてないんじゃないかしら? 佐伯さんとか優しそうだし、自分のことが好きな人が居るなんて知ったら、積極的に朝比奈に話しかけるなんて出来なさそうだわ」
「……確かに」


 それは一理ある。彼女は絶対に人からの好意を、無下に出来なさそうだ。それが親しい人間なら尚更。


「今は朝比奈が好きな人を作ってないから何とかあの関係が保ってるようなものだけど、これで朝比奈に恋人とか出来たらどうなるんだろうね?」
「まあ、大変でしょうね」
「だよね。見てるぶんはともかくとして、実際に巻き込まれたら大変だろうね」
「……」


 苦笑しながら言った夏希だったが、菖蒲がその言葉に何も言わずに、ただただ笑みを浮かべていたことには気付かなかった。

 そして自分に向けられる視線があることも、その視線に気付いてひっそりと菖蒲に似た笑みを浮かべた人物にも、彼女は気付くことはない。

 彼女はこの時点では何にも気付くことはなく、況してや自分が他人事のように大変だなと思っていたあの恋模様に巻き込まれるだなんて微塵も思わずに、親友と笑い合っていた。
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