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 ――体育祭が終わって一週間後には中間考査が待ち受けている。夏希は家ではどうせ勉強しないだろうと、放課後に嫌々ながら図書室に赴いていた。

 今日は月曜日。月曜日は水曜日と金曜日と違って、授業数が一時間少なかったから、放課後に少しなら図書室で勉強することが出来た。

 水曜日と金曜日は七時間なのだが、それ以外の曜日は六時間で終わる。図書室はいつも六時まで開いているので、六時間の日なら大体二時間は勉強できた。

 夏希と菖蒲は適当に席を決め、勉強道具を取り出した。その時に二の腕が少しだけ痛んで、夏希は顔を顰める。

 連休中に体育祭の疲れは粗方取れたものの、土曜日は筋肉痛が激しかった。借り人競争の時にしか走っていないはずだが、やはり運動不足は深刻らしい。

 もう少し運動した方が良いのかな、と思いながらとりあえず数学を手に取ってみた。


「ねえ、菖蒲。数学って何ページまで?」
「二十四ページまでよ」
「分かった、ありがとう。……ていうか中間考査なのにページ数多いよね」
「一応進学校という看板掲げてるからでしょ」
「……はあ」


 一応進学校、という看板を掲げているこの星蘭学園の授業は、それなりのペースで行われていた。

 数学や英語なんかは、特にそれが顕著である。先程夏希が菖蒲に聞いたページ数だって、教科書のものではなく、問題集のものなのだ。

 夏希は溜息を吐きつつ、とりあえず問題集を開いてみた。最初はともかく、ページを進めていくにつれ、分からない箇所が増えていく。

 解説を見ながら進めてみるものの、こういう問題集の解説は分かりにくい。途中の式を飛ばしているから、どうしてそういう式が出るのか分からないのだ。

 菖蒲に聞いてみたいと思ったものの、菖蒲は集中していて聞くに聞けない。

 どうしようか。分からない問題に限ってテストに出る可能性が高いから何とかして解決したいと思っているのだが。

 とりあえずその問題は保留にしておき、夏希は先に進んだ。分からない問題はとりあえず飛ばし、一度範囲内の問題を全て終わらせようと思ったのだ。

 それでも二時間で終わるわけもないし、集中力も持続しない。ふと手を止めて時計を見てみると、針は五時を指していた。

 ちょっと休憩しよう。夏希は菖蒲の邪魔をしないように席を立った。息抜きに適当に図書室の中を回ってみようと思ったのだ。

 図書室は広くもなく、狭くもない。それでもグルッと見回ってくれば、多少の息抜きにもなるだろうと、適当に本棚に向かって歩いていると、そこには。


「あれ、朝比奈?」
「蒼麻……お前も勉強?」
「うん、でもちょっと休憩中」
「ははっ、俺も」


 全く気付かなかったが、同じく図書室で勉強していたらしい黎の姿があった。

 黎は自分のグループの三人と、妃芽と由貴といういつものメンバーでこの図書室に勉強しに来ているらしい。

 そうして少し休憩しようと適当に歩いて目に付いた本棚で本を漁っていたら蒼麻がやってきたと、そういうことらしい。


「蒼麻は東海林と?」
「ん。でも菖蒲はまだ集中してたから、邪魔しないようにこっちに来たの。座ってても気分転換できないし」


 私って集中力長続きしないんだよね、と言った夏希に黎も頷く。どうやら夏希と同じように集中が切れやすいタイプのようだ。


「勉強とか面倒だよな」
「まあ否定はしないけど。……あれ、でも確かさ、朝比奈って頭良くなかったっけ? 前の考査で一桁じゃなかった?」
「いや、まあ……それなり? つうか何でお前が俺の成績知ってんの?」


 夏希と黎は去年同じクラスではなかった。結果は張り出されるわけではなかったから、誰かが言わない限り彼女が自分の成績を知っているはずがない。

 勿論黎が言ったわけではない。そもそも去年は夏希とあまり親しくなかったし。


「えーと、誰かが言ってたのを聞いたんだよね……誰だっけ?」
「本当に誰だよ……」


 何で人の成績を勝手に言い触らしているんだ。そう思って黎は溜息を吐いた。無断で言い触らされるのは気分が悪い。せめて許可を取れ、許可を。
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